宇宙は400億光年先まで見えている!?〜赤方偏移と距離の関係〜(数値改訂)


 さて、次のような表現は正しいでしょうか?

 「宇宙が誕生したのは138億年前なので、138億光年先までしか見えない」
 「100億光年かなたの銀河の光は、100億年かかって地球に届いている」

 どちらもよく見かけるものですが、正しくないです。

 たしかに、宇宙が膨張していなければ、100億光年の距離にある銀河からの光が届くのに 100億年かかります。

 しかし、実際の宇宙は膨張しているので、光が届く間に、その銀河は100億光年よりも遠くに行ってしまっています。
 たとえるなら、銀河は動く歩道に止まっている人、光は動く歩道を逆走する人、のようなイメージです。 動く歩道上の同じ位置からスタートすると、逆走する人が歩道の始点に着くころ、歩道上に止まっていた人は、ずっと先まで進んでいるでしょう。

 では、100億年かかって光が届くような銀河は、現在どのくらいの距離にあるのでしょうか?
 そして宇宙年齢138億年と同じだけ時間がかかるような場所(宇宙の果て)は、どこにあるのでしょう?

 宇宙膨張に関する宇宙論の式を使うと計算できます。

 銀河の赤方偏移を z 、現在の距離を x 、zに対応する時刻を t とすると
  赤方偏移zと現在の距離xの関係式 赤方偏移zと現在の距離x、時刻t、始めの位置x0の関係
  赤方偏移zと時刻tの関係式

 また、光が出発した時の天体の位置(初めの位置) x0 は、現在の位置 x を時刻 t から現在までの宇宙の膨張率 1+z で割ったものです。

 ここで宇宙論パラメータ現在の観測値
 (1)ハッブル数 H0 = 67.15km/s/Mpc
 (2)密度パラメータ Ω0 = 0.317
 (3)宇宙項 ΩΛ = 0.683 

 (4)光速 c = 2.99×105 km/s

を代入して計算した結果をまとめたものがと右の図です (※この計算では、z>10000で放射優勢となることも考慮しました)。

 これを見ると、次のようなことが分かります。
  •  100億年かけて光が届くような銀河(赤方偏移 z=1.7)は、現在158億光年の距離にあるが、もともとは58億光年のところにあった
  •  138億年前に光を発した領域(「宇宙の地平線」: z=無限大)は、およそ458億光年にある
  •  現在138億光年のところにある銀河は、およそ90億年前のものである( z=1.4)
 人類が観測できる最も古い(遠い)光である宇宙背景放射は赤方偏移が約1000なので、距離は451億光年です。 つまり、観測的限界としての「宇宙の果て」は、138億光年どころか、400億光年を超えるような距離にあることになります。
 また、現在発見されている最も遠い銀河は131億年前のものです。 距離で言えば、290億光年以上(!)です。
 一見、450億光年を138億年で光が進むなら、光速をはるかに超えているような感じがするかもしれませんが、 もともとはもっと近いところ( x0 )にあったものが、宇宙膨張によって距離が広がってしまっただけです。

 138億年前、すぐ目と鼻の先にあった場所からの光が、届くのに138億年もかかっているなんて、ふしぎですね。

宇宙年齢(横軸)と宇宙の地平線、観測可能な天体の始めの位置の関係

※参考:石坂千春著「宇宙がわかる」(技術評論社)もお読みください。

2010.2.6記、2014.8.24改(石坂

石坂千春のページ
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