薬って何?毒って何?その20

胃が痛い
おなか痛い、おなかが痛い…胃が痛い、胃が痛い…。う〜ん、胸焼けか…。ちょっと前まで通勤電車での私の体調。朝ごはんを食べて、1時間から2時間くらいすると、結構きつめの胸やけの症状が出てきたのでした。「病院行こうかな…」と思いましたが、この状態で行ったら、きっと胃カメラを飲まされるに違いないと思い、病院へは、足が向かないまま現在に至っています。

胃のはたらき
食べた食物は、胃で消化されます。このときの主役が胃酸(塩酸)。胃酸は、かなり強くpH=1といわれています。そして、もうひとつがタンパク質分解酵素のペプシンです。普段は、不活性な状態ですが、pHが低いところで活性化され、タンパク質分解酵素としての働きをします。これら2つで、食べ物を消化し、腸から栄養分を吸収しやすくするのです。では、なぜ胃は、これらの液で自分自身を溶かさないのか?それは、胃液の3つめの成分、ムチンと呼ばれる分泌物によって胃の粘膜が守られているからです。そのため、通常は胃液により、胃が溶けるということはありません。


 胃酸が出るのは、胃に食物が入り、体内にあるヒスタミンという物質が、胃の中のヒスタミン受容体(以下、H受容体)と結びついて、胃酸を出せと信号を送るためです。ヒスタミンは「かぎ」そして、H受容体は「かぎ穴」によくたとえられます。 ストレス、飲みすぎ、暴飲暴食、寝不足、いわゆる無茶をするとヒスタミンの出かたがおかしくなり、空腹時にもヒスタミンが放出され、H受容体と結合し、胃酸を出し続けることがあります。すると、いくら胃自身を保護するために出ているムチンも耐え切れず、胃酸やペプシンによって胃が侵されてしまいます。また、ピロリ菌がアンモニアを出し、菌の周りが中和され、これら原因で炎症、胃かいよう、胃がんなどの病気になります。 その昔、胃かいようなどになったら、胃を切らなければならなかったというのはよく聞いた話です。そこで、製薬会社は、薬で胃かいようを治すための研究をはじめました。

 しかし、いくら患者に投与しても胃酸の分泌がとまりませんでした。よくよく調べてみると、ヒスタミンが結びつく受容体が2つあったのです。それまでに作った薬では、そのひとつH1と呼ばれる受容体に作用していました。そして、H2と呼ばれるもうひとつの受容体に結合する薬が開発されたのです。 H2ブロッカー H2ブロッカーと称される物質がH2受容体と結合すると胃酸が見事に抑えられたのです。この薬は、イギリスのJ.ブラックが開発した、シメチジンという薬です。

 世界で最初のH2ブロッカーは、1976年に発売され世界約150以上の国々で使われています。そしてブラックは、この開発により1988年のノーベル生理学医学賞を受賞しています。 ちなみに、現在日本で使われているH2ブロッカーは、シメチジン、塩酸ラニチジン、ファモチジンという3種類です。 前述しましたが、H2ブロッカーは、ヒスタミンというカギに大変良く似た形をしており、H2受容体に先回りしてカギ穴をふさぎます。すると、ヒスタミンが受容体へ結合できなくなります。つまり、H2ブロッカーは、H2受容体へのヒスタミンの結合をブロックすることで、胃液の分泌を抑えます。


 胃かいようの薬として、医療現場でしか使われていなかったH2ブロッカーですが、1997年から市販の胃薬として販売されることになりました。 H2ブロッカーは、作用が強くたいへんよく効きますが、他の胃の病気の痛みとして出していた信号も消してしまう可能性があるので、十分注意しなければなりません。あ、これは、自分自身に向かって言ってるんですよ。早く病院へ行こうかな…。
(2002.8月記)



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