月刊うちゅう 2002 Vol.18 No.10
台風はなぜ左巻き?  

大阪市立科学館 斎藤吉彦

 季節はずれですが今回は台風の渦についてです。台風の目にまわりの空気が左巻きの渦を作って流れ込みます。

図1.1995年台風12号

右巻きがあってもよさそうですが、つねに左巻きなのです。なぜ、左巻きなのでしょうか?最近、著者が理解したことを紹介しましょう。

コリオリ力で渦
 「地球は自転しているのでコリオリ力が生じ、そのために左巻きの渦が生成される。」という説明をよく耳にします。まずはこのことについて考えてみましょう。
 琵琶湖博物館にコリオリ力を体感させてくれる回転部屋があります(図2)。地球の自転の3000倍、1分間に2回転する部屋です。回転方向は地球と同じで反時計回り。さて、この部屋で起こることはちょっと妙です。まっすぐ飛んで行くはずのボールが右方向へ曲がるので、キャッチボールはちょっと難しいです。私たちの体も前方へジャンプすると右方向へずれてしまいます。まっすぐ歩こうとすると、右へ右へと引き込まれる感じがします。この部屋の中では、運動方向に向かって常に右向きに作用する力が存在するのです。じつは、これがコリオリ力と呼ばれるものなのです。

図2.琵琶湖博物館の回転部屋。
まっすぐ歩こうとすると右へ右へと引き込まれるように感じる。

 地球も一日一回自転をしているので、この部屋の中と同じでコリオリ力が作用しています。ただし、とてもゆっくり回転しているので、非常に弱いものです。直接肌で感じることはありませんが、台風のような大きなスケールになると顔を出してきます。台風の目に流れ込む空気を考えてみましょう。回転部屋と同じようにコリオリ力が作用するので、つねに右へ旋回しながら台風の目に流れ込みます。右へ右へ逃げようとする物を引きずり込むとどんな動きになるでしょうか?左巻きの渦になりますね。これが「コリオリ力のために台風は左向きの渦になる。」という標準的な説明です。1

宇宙から見たら?
 ちょっと見方をかえて、宇宙から台風を見たらどうなるか考えてみましょう。これは回転部屋の中で奇妙に感じた現象を部屋の外から見たらどうなているのかを考えるのと同じことです。回転部屋内ではボールは曲がりました。部屋の外からボールを見るとまっすぐに飛んでいます。コリオリ力のようなものは作用しません。一方、部屋とともに回転している人は、自分分自身の回転を忘れているので、まっすぐ飛んでいるボールを旋回しているように解釈するのです。これをコリオリ力が働いたと感じたわけです。このように、コリオリ力は回転部屋のようなところにいる人が感じるもので、外から見たときには存在しないのです。
 さて、話を戻しましょう。「台風の渦が左巻き」というのはコリオリ力で説明できました。これを宇宙から見るとどうなるでしょう?回転部屋の外から見るのと同じす。コリオリ力は存在しないことになります。ということは宇宙から見ていると台風の渦はできないのでしょうか?そんなことはないですよね。たしかに宇宙から台風を見ても左巻きの渦ができているはずです。どこに左巻きの起源が潜んでいるのでしょう?
 台風の目も大気も地球とともに回転しています。ということは台風の目の北側の大気、台風の目、南側の大気という順に速度は大きくなります(図3)。つまり、台風の目から見るとこの両側の大気は図4のように運動しているのです。これで台風の目に吸い込まれるのですから、当然左巻きの渦となるのです。 図4はもともと大気は左巻きに回転していることを表しています。ですから、「なぜ、。台風の渦は左巻き?」はこれをイメージするだけでよかったのです。コリオリ力だけで理解していた著者は、これを知って目からウロコでした。2

図3.北極に近い方が遅い。

図4.台風の目から大気を見ると、南北で大気の流れは逆向きである。


1.南半球では左右が逆転する。南半球にいる人にとっては地球の自転は右向きとなるのでコリオリ力は運動方向に向かって左向きとなり、渦は右向きとなる。
2.科学談話室「台風の雲」