クリスマスと星
イエス・キリストの誕生を記念するクリスマス、その飾りに星が使われます。これは「一応、いわれはある」のです。ちょっとだけ解説しておきます。

クリスマスツリーの天辺の星=ベツレヘムの星

新約聖書の「マタイによる福音書」によるとキリストが誕生する時に、星が輝き、それを知らせたとあります。そしてその星を頼りに、東方から3人の博士がはるばる旅をして赤ん坊のキリストに会いきたということだそうです。この目標になった星を、生誕記念地の名をとってベツレヘムの星と呼びます。博士をキリストへと導いたベツレヘムの星がシンボルとしてクリスマスツリーの天辺に飾られているのです。

このベツレヘムの星は、実際に見えたかというとかなりあやしいし、実際に博士が赤ん坊に会いにきたかどうかもまたわかりません。なにぶんにも聖書は宗教書で歴史記録としては不完全ですから(聖書の中でもお互いに矛盾する話しがたくさんでてきます)、一言一句を追いかけるのは間違っているとも思えます。しかし、遊びと割り切れば、ベツレヘムの星の正体を探るのはなかなか楽しいものです。

キリストの誕生は紀元1年前後だと考えられています。ローマ皇帝シーザーの後をついだアウグスト帝が地中海一帯を支配した時代です。ローマ文明が発達していたころで、現代に通ずる精密な暦も作られています。星座の図などもある程度精密に作られています。そういう時代ですから、目立つ天体現象は見逃されなかったでしょう。そうすると、変化するものを色々考えることがベツレヘムの星さぐりにつながると思います。では、めだつ、変化する天文現象というと、

1:流星
2:彗星
3:惑星がよく見える
4:変光星
5:超新星爆発

などが考えられます。よく知られているのは惑星の運動の法則を見つけたケプラーが提唱した木星と土星の接近説です。当時のイスラエルで、木星が幸福の星、土星がイスラエルの星と考えられていたそうですから、なるほどぴったりですね。さらに、地球との位置関係で同じ年に3回接近と離合を繰り返す(3連会合)というのが紀元前7世紀にあります。これは200年に1度程度しかない現象ですので、うまいかもしれません。ただ、歴史とあわないという説もあり、あまり支持されていないようです。

彗星は中世の画家ジオットが描いています。彼はハレー彗星を見ているので、その印象が強かったのかもしれません。ハレー彗星の接近は紀元前12年ですのでちょっとつらいかもしれませんが、他の彗星かもしれませんね。

流星は一瞬のできごとなので考えにくいのですが、たとえば多数の流星が流れるというのはどうでしょうか。流星群の場合、数時間出現が続くことがあり、それを見たということも考えられます。でも「とどまった」というイメージとは違うような気がしますね。

変光星(明るさを変える星)、はファブリチウスが17世紀に発見した天体ですが、実は大多数の星が変光星であることが現在は知られています。星の明るさは変わらないという先入観があったのかもしれません。当時は気づかれていなかった変光星の一つであるという可能性もいわれています。特に明るさの変化が激しい、くじら座のミラがそうだと言っている人もいます。

超新星は、星全体が爆発を起こす現象です。これも激しい明るさの変化を伴います。しばらく見えて、見えなくなることからイメージが近いかもしれませんが、証拠がありません。

このようにどうも決め手にかけるベツレヘムの星です。「そんなものは見えなかった」「キリストの象徴」「気象現象だったかもしれない」という説も実は有力です。キリスト教がポピュラーな欧米では、プラネタリウムでこの話しはよく取り上げられ、謎解き本なども多数出版されています。ちょっとインターネットで調べたら、ロサンゼルスのグリフィス天文台南フロリダ科学博物館グアム大学附属プラネタリウムなどが引っかかってきました。他にもいろいろありそうですね。

なお、やや過熱気味のこの論争について、星占いなどの疑似/ニセ科学を批判的に見るサイコップでは、マーチン・ガードナーがコメントを出しています。

ツリーを飾る光=ローソクの炎=マルチン・ルター

さて、ツリーの星は天辺だけじゃないよ、という方もいるかと思います。その通りですね。こちらはベツレヘムの星のような聖書の記述とは関係なく、一説では、宗教改革を行ったマルチンルターの経験がもとになっているそうです。クリスマスイブに森を家に戻ってくる彼は、木々のむこうに星が輝く様子に感動して神様を感じ、多数のろうそくを木につけてその再現をしたということです。まあ、きれいならなんでもいいという感じのようですが、信仰の演出として考えられたようですね。

後に、こうした飾りやお祭りが派手になったさいに、クリスマスを派手に祝うの禁止令がでたところもあったそうですが、結局、俗っぽい人々が押し切り、現在の、クリスチャン以外も巻き込んだクリスマスへとなったようです。

生誕地について
キリストの生誕地はイスラエルのナザレという場所ですが、キリスト教の源流になったユダヤ教では救世主はベツレヘムで生まれるという伝説(預言)があったため、一般にはベツレヘムということにされているそうです。






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