エロスより愛をこめて

NEARシューメーカー探査機の活躍はまだ終わらない

  NASAが1996年2月17日に打ち上げた地球接近小惑星探査計画NEAR シューメーカー探査機は2001年2月12日に小惑星エロスに着陸(激突)してその任務を終了す る予定でした。探査機としてはかなり低コストで作られたシューメーカー探査機はエロス を周回して観測するのが目的であり、着陸することは想定していませんでした。任務の 最期に着陸させたのは、うまくいけばエロスの硬さがわかるから(つまり、エロスが固い岩 ならシューメーカー探査機が壊れる)でした。
  しかしながらシューメーカー探査機は死ななかったのです。それどころか エロスに関して重要な観測データをもたらしました。
  NEARシューメーカー探査機にはガンマ線解析装置(GRS)が積み込まれています。 GRSは宇宙を飛び交う高エネルギーの放射線・宇宙線がエロスに当たったとき、エロス を形成する物質から放射されるガンマ線を調べるものです。このガンマ線を調べることに よって、エロスを形成する物質の成分がわかります。
  エロスに着陸した後、GRSはエロスにカリウムが含まれている兆候を 捕らえました。このことはエロスの生い立ちを知る上で大変重要な発見です。
  カリウムは揮発性の元素で、高い温度になると蒸発してしまいます。 エロスの表面付近でカリウムが見つかったことは、エロスが融けるほど高温になったこと がないことを示しています。カリウム以外の成分の含まれ具合も、エロスが”成分未調整” の原始的な小惑星であることを示唆しています。エロスは微惑星の生き残りだったのです。
  微惑星は太陽系誕生の初期、原始太陽系星雲の中から生まれました。 太陽系の惑星は太陽が生まれて百万年ほどたった後、たくさんの 微惑星が衝突合体を繰り返して誕生しました。惑星は衝突合体の際に高温になり、 成分の調整が行なわれます(たとえば地球の場合は中心に鉄、表面近くは珪素を主成分 とした岩に分離する)。小惑星のなかにはこうして惑星になる途中で、惑星が壊れてでき たものもあります。一方でエロスのように太陽系誕生のころの情報を保ったままの 小惑星もあるのです。今後こうした小惑星の研究が進めば、太陽系や惑星がどのように 誕生し、どのように変化してきたのかについて知ることができます。

エロス:小惑星番号433。大きさ33km×13km×13kmのピーナッツ形。軌道長半径 1.46天文単位(2億2千万km)。2012年に地球に0.18天文単位まで近づくが衝突の恐れはない。

原文は Science@NASAをご覧下さい。

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