国立天文台・天文ニュース (528)

池谷・張彗星は1661年の彗星の再来か

池谷・張彗星(C/2002 C1)が2月1日に発見され(天文ニュース521)、3月下旬に
4等級ぐらいに増光しそう(天文ニュース523)なことは、すでにお伝えしました。
その後の観測および計算によって、この彗星は1661年に観測された彗星C/1661 C1
の回帰である可能性が高まりました。
 この結論にたどり着くまでには、ちょっとした曲折がありました。洲本市の
中野主一(なかのしゅいち)さんは、2月10日までに観測された池谷・張彗星の軌
道を調べて、C/1532 R1が回帰した可能性があることを指摘しました。この推定
は新聞記事にも取り上げられ、全国に伝えられました。C/1532 R1は1532年9月
に中国で発見され、12月末まで見えたという、ハレー彗星よりも明るい大彗星
です。もしそうだとすると、470年ぶりの再出現で、池谷・張彗星は予測よりずっ
と明るくなるかもしれないとも思われました。
 しかし、この期待はすぐに裏切られました。池谷・張彗星がC/1532 R1と同じ
であるとして計算した位置は、その後2月20日までの観測位置と少しずれてくる
ことがわかったのです。そこで浮かびあがったのが、別の彗星C/1661 C1の回帰
ではないかという推定です。C/1661 C1は、1661年2月にポーランドの天文学者
ヘベリウス(Hevelius,J)が発見し、3月末まで見えたという彗星で、6度ほどの
尾が見えたと記録されています。実をいうと、この彗星は発見当時からC/1532 R1
との軌道の類似が指摘され、同一彗星の可能性も考えられました。もし同一彗
星であるなら、1788年から1789年にかけてまた回帰するはずです。そうした期
待をもって軌道が計算され、熱心に捜索されたにもかかわらず、その彗星の回
帰は結局発見されませんでした。これでC/1532 R1とC/1661 C1が同一彗星であ
る可能性は否定されたのです。
 今回発見された池谷・張彗星とC/1661 C1とを同一と見なすことに対しては、
現在のところ大きな矛盾がありません。341年ぶりの彗星回帰の可能性が高まっ
ています。これだけ長周期で彗星回帰が確認された例はこれまでになく、確認
されれば、これまででもっとも長周期の周期彗星になります。なお、1993年に
発見されたマクノート・ラッセル彗星(C/1993 Y1 McNaught-Russell)が約1400
年前の574年に見えた彗星の回帰ではないかといわれていますが、これは確実に
同定されたものではありません。

参照 MPEC 2002-C111(Feb.15,2002).
MPEC 2002-D36(Feb.26,2002).
http://www.oaa.gr.jp/~muramatu/comet/c2002c1.htm

2002年2月28日 国立天文台・広報普及室