本ページは粟野他著「天空からの虹の便り」(裳華房、2001年)にも採録されていますので、ご参照いただければ幸いです。
代表的な恒星として実視等級1.5以下の一等星をとりあげ,その性質を簡単にまとめておきます. |
1等星名 | 英語表記 | 星名略記 | 星座 | HD番号 | 実視等級 | 距離 (光年) |
スペクトル型 | 有効温度 (K) |
自転速度 (km/s) |
アクルックス | Acrux | α Cru | みなみじゅうじ | 4730/1 | 0.8 | 320 | B0.5?+B1? | 117/197 | |
アケルナル | Achernar | α Eri | エリダヌス | 472 | 0.5 | 140 | B3?pe | 15000 | 251 |
アルクトゥルス | Arcturus | α Boo | うしかい | 5340 | -0.0 | 37 | K1?b | 4300 | <17 |
アルタイル | Altair | α Aql | わし | 7557 | 0.8 | 17 | A7? | 7900 | 242 |
アルデバラン | Aldebaran | α Tau | おうし | 1457 | 0.8 | 65 | K5? | 3900 | <17 |
アンタレス | Antares | α Sco | さそり | 6134 | 1.0 | 500 | M1.5?ab-?b | 3100 | <20 |
カペラ | Capella | α Aur | ぎょしゃ | 1708 | 0.1 | 42 | G5?e+G0? | 5000/5600 | |
カノープス | Canopus | α Car | りゅうこつ | 2326 | -0.7 | 310 | F0? | 7500 | 0 |
シリウス | Sirius | α CMa | おおいぬ | 2491 | -1.5 | 8.6 | A1?m | 9700 | 13 |
スピカ | Spica | α Vir | おとめ | 5056 | 1.0 | 260 | B1?-?+B2?X | 24000 | 159 |
デネブ | Deneb | α Cyg | はくちょう | 7924 | 1.3 | 1800 | A2?ae | 9000 | 21 |
ハダル | Hadar | β Cen | ケンタウルス | 5267 | 0.6 | 530 | B1? | 139 | |
フォマルハウト | Fomalhaut | α PsA | みなみのうお | 8728 | 1.2 | 25 | A3? | 8600 | 100 |
プロキオン | Procyon | α CMi | こいぬ | 2943 | 0.4 | 11 | F5?-? | 6500 | 6 |
ベガ | Vega | α Lyr | こと | 7001 | 0.0 | 25 | A0?a | 9600 | 15 |
ベテルギウス | Betelgeuse | α Ori | オリオン | 2061 | 0.4v | 500 | M1-2?a-?ab | 3500 | 0 |
ポルックス | Pollux | β Gem | ふたご | 2990 | 1.1 | 34 | K0?b | 4900 | <17 |
ミモサ | Mimosa | β Cru | みなみじゅうじ | 4853 | 1.3 | 350 | B0.5? | 28000 | 38 |
リゲル | Rigel | β Ori | オリオン | 1713 | 0.1 | 700 | B8?ae: | 12000 | 33 |
リゲル・ケント | Rigel kentaurus | α Cen | ケンタウルス | 5459/60 | -0.3 | 4.4 | G2?+K1? | ||
レグルス | Regulus | α Leo | しし | 3982 | 1.3 | 77 | B7? | 12000 | 329 |
有効温度は,星からの放射が黒体放射によると見なした場合の温度のことで,ほぼ星の表面温度に相当します.
自転速度(km/s)は天球上に投影された見かけの自転速度で,赤道の自転速度をv,自転軸の傾斜角 i とすると,v sin i のことです.
一等星紹介
アクルックス |
みなみじゅうじ座の1等星.距離は 320光年,実視等級は +0.77,色指数(B-V)は -0.24.全天で14番目に明るい.
アクルックスという名前はアメリカの天文家 E. H. バリットの造語と思われます.彼は1833年から1856年の間に星図を7度に渡って出版し,そこでこの名称を用いています.もちろんこの名は星座名CRUXと,バイヤーがアルファ星と記述していることとから案出したものです.
アクルックスはまずHR4730とHR4731から成り,HR4730が連星系ですから,全部で3重連星系となります.HR4730のうちAはB0.5IV型の青い準巨星で,太陽よりずっと大きく,明るい(見かけの明るさは1.34等).BはAから4.1秒角離れていますが,これは少なくとも400天文単位に相当し,太陽―冥王星間の10倍以上です.最近距離61天文単位の軌道とすると質量はそれぞれ太陽の14倍,10倍となります. C=HR4731はAから約90秒角離れています.この青い準巨星は B0.5IV 型で実視等級4.86等です.なお、主星Aはさらに周期75.769日の分光連星になっているという研究もあり,なかなか複雑な構成のようです.
HR4731とは視線速度は一致していませんが,共にさそりーケンタウルス・アソシエーションのメンバーです.また,X線源2U1223-62らしいとも言われています.
アケルナル |
エリダヌス座の1等星.距離は 140 光年,実視等級は +0.45,色指数(B-V)は -0.16.
アケルナルという名前はアラビヤ起源で,アル・アキル・アル・ナールという「川の果て」という意味から来ています.この名の元になった川は,もちろん,アケルナルが入っている星座のエリダヌス川です.
アケルナルはスペクトル型が B3Vpe の高温の主系列星で,直径は太陽の9倍で太陽よりずっと明るく,表面温度は14000度ほどです.これから推察すると光度は太陽の1300倍ほどになります.1.26日で視線速度および光度がそれぞれ30km/s,0.02等の幅で変動しています.この変化は自転によるものというのが自然な解釈です.コペルニクス衛星で水素のライマン・アルファとベータ線が観測されています.Hα線とHβ線は輝線となっていて,時々変化します. そこで,スペクトル型に e の記号をつけ,輝線 emission が出ていることを表しています.高速の質量放出があり,星周シェル(殻)があって膨張しているようです.
アルクトゥルス |
オレンジ色のうしかい座の1等星.距離は 37 光年,実視等級は -0.05,色指数(B-V)は +1.23,全天で4番目に明るい.アルクトゥルスはオレンジ色に輝き,おとめ座の白いスピカと好対照をなしています.
和名では麦星,麦刈星,五月雨星など.麦星や五月雨星など季節感溢れた情緒ある名前ですが,麦の栽培などがほとんど行われていない昨今ではこの雰囲気を楽しむのはむずかしいようです.梅雨の合間に雲間に見え隠れするとことから,名古屋市科学館のプラネタリウム解説者であった山田卓氏はアルクトゥルスとスピカを「あじさい星」と呼んでいましたが,うまく季節を表現した素晴らしい名称だと思います.これならまだ雰囲気が味わえそうです.アルクトゥルスは「熊の番人」を意味するギリシャ語で,隣のおおぐま座と結びついた名前です.別名はハリスエルセマと言い,アラビヤ語の「天の守り手」を意味するアルハリスアルサマから来ています.
アルクトゥルスは固有運動の大きな高速度星としてもよく知られています.これは,太陽などの若い星とは違い,銀河回転に乗っていない老齢の種族によく見られる現象で,銀河面に対して鉛直方向に運動しているために起ります.ちなみにアルクトゥルスは1000年間に赤経方向に-0.3度,赤緯方向に-0.6度動きます.これを合成すると1000年間に0.63度,つまり約800年で月の視直径分動くことになります.太陽系に対して秒速125kmもの速度になっています.1718年,ハレーが約2000年前にプトレマイオスによって記録された位置とずれていることに気づいて発見しました.
1900年頃,エバハートが分光観測を行い,カルシウムの強い吸収線であるH線とK線の中心部に輝線が重なっていることを発見しました.その後,太陽でも同じ現象が見られることがわかり,現在では彩層から放たれた光と解釈されています.このような現象はK型やM型の星にはよく見られますが,アークツルスがその発見の最初の例でした.
1995年頃,ヒッパルコス衛星の観測から連星系であることがわかりました.アークツルスAはオレンジ色の K1.5IIIFe-0.5 というスペクトル型の巨星で,有効温度は約4300度,質量は太陽の約20倍.実視光度と距離から推定すると光度は太陽の110倍となります.直径は太陽の28倍,表面重力加速度は太陽の3500分の1です.30種類程度の元素について存在量が求められており,金属は太陽の4分の1程度の量です.伴星のアークツルスBはAより3.3等暗く,0.255秒角離れていて,2.9天文単位に相当します.
アルタイル |
わし座の1等星で,高速自転星.距離は 17光年,実視等級は +0.76,色指数(B-V)は +0.22.
和名として彦星が有名.他に犬飼,牛飼星など.アルタイルの名はわし座を表すアル・ナスル・アル・タイルというアラビヤ語から来ています.アタイルと言うこともあるそうです.
アルタイルのスペクトル型は A7V で,白色の主系列星です.直径は太陽の1.6倍.スペクトル型から推定した有効温度は7900度前後で,光度は太陽の約9倍,質量は約2倍です.
高速自転していることでよく知られており,赤道での自転速度は240km/sにもなっています.この速度では6.5時間で自転することになります(太陽では赤道の自転周期は25.4日).遠心力が効くので,星全体はつぶれていて,極半径は赤道半径の半分ほどと推測されています.
アルイタイルは恒星の自転についての最初の研究に登場しています.1877年,イギリスのエイブニ−は星が自転していると,その影響はスペクトル線の広がりとなって現れるだろうと考えました.恒星表面の東西両端から発する光はドップラ−効果を受け,恒星表面の中心から発した光は受けません.そんな光がまじりあったものを分光するとスペクトル線の広がりとなるはずです.この話を聞いたフォ−ゲルは早速観測を行い,Hβ線を用いてベガとアルタイルの自転速度を求めたところ330km/s,185km/sという値が得られました.これは余りにも速く,非現実的な値であり,自転はスペクトル線には影響しないのだろうと彼は推測しました.これはもともと幅広くて強いHβ線を用いたフォ−ゲルの誤りで,21年後,エイブニ−の予想のとおり全てのスペクトル線が広がっていることがわかり,アルタイルが高速自転していることが確実となってフォ−ゲルも誤りを認めました.
アルデバラン |
おうし座の1等星で,ヒヤデス星団と重なって見えます.距離は 65 光年,実視等級は +0.87,色指数(B-V)は +1.54.
和名ではすばるのあとぼし,赤星など.アルデバランの名は「後に従うもの」という意味のアラビヤ語のアル・ダバランから来ています.その起源は明らかに,この星がヒヤデスのメンバーでもっとも明るく(ヒヤデス星団の手前の半分ほどの距離にあって,実際には星団のメンバーではない),プレヤデスの後に続いて日周運動するところにあります.日本でも「あとぼし」,「すばるのあとぼし」の名があり,発想は同じだったようです.別名のラテン名はコルタウリと言い,「牡牛の心臓」の意味を持っています.また,パリリシウムというラテン名もあり,田舎の神様の祭典に関係しているということです.
アルデバランはオレンジ色の巨星で,直径は太陽の約50倍あります. K5III というスペクトル型から見ると,表面温度は3900度で,光度は太陽の200倍前後と推定されます.質量は太陽の約25倍です.スペクトル型が M2 という13等の赤い伴星が31秒角離れてついています.変光星にも分類されていて,0.75等から0.95等の間で変光しているのは,外層大気が大きく広がっていて不安定になっているからです.赤外線の観測では角度の10秒程度に広がって見えており,希薄な外気層が太陽系の3倍ほど広がり,外側に低温度成分があることがわかっています.
黄道近くに位置しているため,月によるアルデバラン食がしばしば起こり,最も古い記録では西暦509年3月にアテネで観測されているようです.それから約1000年後,ハレー彗星で有名なエドモンド・ハレーはこの記録を調べて当時のアルデバランの位置が今の場所より角度の数分ほど北になければ起こらなかったと結論しました.月の軌道面は地球の公転面に対し18.6年で回転しています.そのため,アルデバラン食もこの周期を持っています.たとえば1997年と509年をとってみると1488年離れていますが,18.6年の80倍はちょうど1488!西暦509年あたりに起こったことは十分考えられます.こうしてハレーはアルデバランが南に向かって勝手に動いていることを発見しました.現在,固有運動と呼ばれている現象の発見でした.アルデバランの固有運動量は1年で0.2秒で,2000年で7分になり,月の大きさ分移動するのに9000年かかることになります.これは固有運動としては結構大きい方です.
アンタレス |
さそり座の赤い1等星.距離は 500光年,実視等級は +1.06,色指数(B-V)は +1.83.
アンタレスの名はギリシャ語の「火星の対抗者」という意味のアンチアレスが起源とされています.それは星の色,あるいは,占星術では火星と特に結びついているさそり座という星座にアンタレスが入っていることと関係しています.ラテンの別名はコルスコルピイと言い,「さそりの心臓」という意味です.アラビヤ語でカルブ・アル・アクラブというのも同じ意味です.輝星カタログ(Catalogue of Bright Stars)ではベスペルティリオを別名として挙げていますが,アレンによればこの名は棍棒の意味で,アテネの悲劇作家ソフォクレスまでさかのぼるのではないかと言うことです.和名の赤星や酒酔い星なども明らかにその色からつけられたものですし,中国名の火,大火,火星も同様です.
アンタレスは連星で,主星Aはスペクトルが M1.5Iab-Ib 型の低温の赤色超巨星です.有効温度は3100度くらいで,光度は太陽の10,000倍,質量は太陽の15.5倍,半径は4天文単位に達するほどで,太陽と置き換えると地球は飲み込まれ,火星や小惑星帯も飲み込まれてしまうほどで,木星が表面から1天文単位のところを回っている,という状態になるでしょう.干渉計による観測から見かけの直径として0.039秒,月による食から0.041秒という値が得られています.また,他の超巨星と同じく,穏やかに変光していて(0.86〜1.06等),周期が1.733日または4.75年の半不規則とされています.紀元150年以前はもっと明るかったのではないかと言う話もあります.
5.5等の伴星は B4Ve の高温の青い主系列星で,表面温度は18,000度と推定されています.これも太陽より大きく,直径は約4倍あり,質量は太陽の7倍,光度は1900倍あります.両星の公転周期は878年,軌道半長径は2.9秒角で,これは540天文単位に相当します.太陽系で言えば冥王星の軌道半径の約14倍になります.軌道の解析から,それぞれの質量として15.5倍,7.0倍が得られています.
周囲には塵やガスが取り巻いていて,そこから電波が発せられているらしく,それが1970年に観測されました.これが星から電波を検出した最初の例となりました.また,紫外線域には鉄の1階電離イオンの輝線が見られ,波長5ミクロンの赤外線観測からは一酸化炭素が検出されています.これらは拡散した大気,さらに広がる塵・ガス雲の存在を示しています.
さそり座からその南のケンタウルス座にかけて散らばっているアンタレスを含む数10個の星が同じ方向に運動しており,かつて同じ場所で誕生した星群ではないかと推測されています.これらをさそりーケンタウルス・アソシエーションと呼んでいます.ほとんどはB〜A型の若い星ですが,アンタレスだけは進化が進んで赤色超巨星という老齢に達しています.
カペラ |
ぎょしゃ座の1等星.全天で6番目に明るく,1等星のなかで北極星に一番近い.距離は42.2光年,実視等級は 0.08等.
カペラはラテン名で,「小さな雌やぎ」の意味.ニンフのエイゲのギリシャ名がアラビア化したアルハヨスとしても知られています.エイゲはゼウスの神話に関するいろいろな話に登場し,クレタ島の神の子を育てた子守り女の一人とされています.そこでは怪物のようなタイタン族の父であるクロノスからゼウスが逃れ隠れていました.
カペラは2つの巨星ABと2つのわい星からなる4重星系です.
ABは互いに回り合っている近接連星系で,Aは黄色G5IIIeの巨星で太陽直径の7.2倍,質量は2.67倍,BはG0IIIの巨星で直径は5.6倍,質量は2.55倍です.明るさはそれぞれ80倍に50倍.G5の方が明るいようです.スペクトル型から推定すると太陽程度の温度で,G0星は5600度,G5星は5000度程度と思われます.両星は約1億km離れ,104日周期で公転しています.角度で0.04秒しか離れていませんから通常は離れては見えず,1920年にウィルソン山天文台の干渉計により分離されました.これが干渉計によって分離された連星系の最初の例となりました.
他の2星はスペクトル型がM1とM5の赤色わい星で,カペラHと書くことがあります.実視等級は10.0に13.7等です.両者は2秒角離れていて,これは26天文単位に相当します.ABからは12分角=0.17光年離れています.それぞれ太陽質量の40%,10%あり,明るさは太陽の1.4%に0.05%です.
これにとどまらず,全部で11星から成るという研究もあり,複雑な構成のようです.微妙に変光し,軟エックス線を放射しており,太陽と同じような活動的な黒点やコロナなどに加え,連星特有の活発な動きをしていると想像されます.
カペラはまた,ヒヤデス運動星団の一員とされており,ヒヤデスの星たちと一緒にオリオン座のベテルギウスのやや東の収束点に向って動いています.
カノープス |
りゅうこつ座の1等星.南極老人星とも言われていた全天第2の輝星.南に低く,北半球からは観測がむずかしい.距離は 310 光年,実視等級は -0.62,色指数(B-V)は 0.15. F型の超巨星です.
別名スヘルかスハイル.カノープス名には少なくとも2つの起源が指摘されています.一つの起源はホメロスの描くトロイア戦争でのギリシャ艦隊の水先案内人に対する星の名前というものです.伝説ではエジプトのカノープスの町が水先案内人と星に結びつけられています.その話では,トロイアが滅びた後,ギリシャ人たちが故郷に凱旋した時,カノープスの船がエジプトに上陸したそうです.メネラオス王はその地に案内人を称える記念碑を建て,彼の名前を町につけ,同じように星にもつけたということです.
星名研究家アレンは,「金の大地」を意味するコプト語のカヒヌブから来ているのではないかと言っています.そのコプト語の名前はカノープスが明るいことと,あまり地平線より上に上がらない(エジプト北部では8度未満)ことから来ているようです.
カノープスのスペクトル型は F0II で,黄色がかった超巨星です.直径は太陽の65倍で,光度は14000倍,全天で2番目に明るく,シリウスよりほんの少し暗いだけです.表面温度は約7500度と推定されています.
星に巨星とわい星の別があることは100年ほど前にヘルツシュプルングが明らかにしましたが,実はその前1895年にアイルランドの裁判官でアマチュア天文家のモンクがカノープスが巨星であることを指摘していました.カノープスは固有運動が小さく,遠方にあると考えられるのに,明るい1等星として見えるのは巨大な星だからだ,という理由でした.
またこの星は分光研究上で大きな意義のあった星です.アメリカのグリーンシュタインが1942年にスペクトル線の比較解析法を考案し,最初にカノープスを対象に選んで太陽とスペクトル線強度を比較して物理状態を求めました.この手法はあまり温度の違わない星に有効な手法で,今でも比較的暗い星の解析に使われることがあります.カノープスについてはその後いくつかの分光学的研究が行われ,現在ではその化学成分は太陽類似ということになっています.
シリウス |
おおいぬ座の1等星で,全天一明るい星です.地球に近い恒星の一つで,距離は8.60光年,実視等級 -1.44,色指数 (B-V)= 0 .
シリウスの名称はギリシャ起源ですが,星名研究者アレンは起源および意味ともに不明としています.シリウスはその星座から犬の星 dog star とも呼ばれています.シリウスの別名はカニクラと言い,ラテン名で「小さな犬」の意味ということです.また,アラビア起源ではアシェーレとも言いますが,その起源も意味もよく分りません.シリウスから派生した名称でしょうか.また,ギリシャ語のセイリオスが起源とも言われています.これには焼きこがすものの意味があります.ナイルの星とも言われることがあるように,シリウスはエジプトではナイル川の氾濫時期を教えてくれる特別な星であり,太陽暦を生み出すもとになったとも言われています.また,中国名の天狼星もその鋭い輝きをうまいこと形容した名前です.それに比べると,あおぼしという和名はとてもやさしい感じがします.
シリウスはスペクトルが A1Vm 型の白色の主系列星で,光度は太陽の22倍で,直径は1.6倍あります.スペクトル型から推定される有効温度は9700度で,質量は太陽の約2倍です.スペクトル型にmの添え字が付いているのは金属 metal の吸収線が他のA1V型星に比べて強く見えていることを示しています.このような星を金属線星と言っています.実際,バナジウムV,クロームCr,ストロンチウムSr,イットリウムY,ジルコニウムZr,バリウムBaなどは太陽の10倍以上も多いことが分っています.これは表面に集積しているだけであろうと考えられていますが,その原因はまだよくわかっていません.
シリウスは連星系で,伴星シリウスBはシリウスが dog star というところから「小犬」とも言われます.実視等級は8.49等で,太陽光度の400分の1しかありません.両星は約20天文単位離れていて,50年で巡っています.この距離は太陽ー天王星間に相当します.これからシリウスAは太陽質量の2.35倍で,全系の54%の質量を持っていることが導かれます.シリウスBの有効温度は32000度で,表面積当たりのエネルギー放出量は太陽の約900倍になります.これほどエネルギー放出が多いのに太陽光度よりずっと暗いのは,星自体が小さいためです.このように高温で小型の星を白色わい星と言います.質量は太陽程度ですから,その密度は1立方cmあたり約0.5トンにもなります.
シリウスBは白色わい星発見第一号ですが,その発見は全く偶然のことでした.1862年,アメリカの望遠鏡製作者アルバン・クラークとその息子は製作中の口径45cmの望遠鏡の試験のためシリウスを眺めたところ,この小さな星を発見しました.実は,1844年,ドイツのベッセルはシリウスの固有運動にふらつきがあるため,不可視伴星があるだろうと予想していました.これが高温・高密度の白色わい星であることを明らかにしたのはアメリカのアダムズで,1914年のことでした.シリウスBのスペクトルがシリウスAによく似ているためほぼ同じ表面温度と推定されるのに明るさが1万倍も異なるのは小さいからで,固有運動のふらつきから見積られた質量は太陽程度という2つの情報から,それまで知られていなかった新種の天体ー白色わい星と結論されました.このような星の物理的性質がどうなっているかを示したのは物理学者ファウラー(1925年,縮退星を提唱)やインド生まれのアメリカの天文学者チャンドセカール(1939年)で,チャンドセカールはこの功績により1983年のノーベル物理学賞を受賞しました.
スピカ |
おとめ座の白色の1等星.距離は 260光年,実視等級は +0.98,色指数(B-V)は -0.23.
スピカは「小麦の穂」を意味するラテン語です.これは,ケレス,あるいはデメテールという収穫の女神とおとめが結びついた名前です.別名をアジメクと言い,アラビヤ名のアルシマクアルアザル,つまり,「無防備状態」ということで,周囲にあまり星が見えないことから来ています.他にアララフという名もあります.わが国ではかつて,北陸の漁師たちが真珠星と呼んだということです.アークツルス(うしかい座)と対にして夫婦(めおと)星ともよんでいたそうです.スピカが妻にあたります.アークツルス(うしかい座)とデネボラ(しし座,2等星)の3星で「春の大三角形」となっています.
スピカの構成は実に複雑です.まずスピカはABの実視連星で,Bは148秒離れた12等星です.主星Aは4重の分光連星(主星0.98等,あと3.1等(0.0025秒離れている),4.5等(0.05秒),7.5等(0.5秒))で,そのうち主星(太陽質量の10倍程度,B2型)と3.1等星(太陽質量の7倍程度,B7型)は固く結びついていて太陽半径の30倍程度離れており,4.01日で公転しています.その軌道面は130年で回転しているということです.主星は0.97等から1.04等まで4時間10分で変光しています.これは自転速度があまりに早くて(秒速190km/s!)楕円状に歪んでいて,その上おおいぬ座β星に似た脈動していることによると考えられています.この変光周期は100年ほど前には6時間ほどだったらしく,大幅に縮んでいます.これだけの大きな変化がすんなり起こったとは考えにくく,連星系との関連を考慮しなければならないのでしょうが,詳細は不明です.なお,主星と3.1等星は食を起しているという説もあります.軌道面は視線に対し24度傾き,それほどのエッジオン(=真横)状態ではありませんが,それでも食が起っていて系の光度は約0.07等変動するということです.
構成についてこのように結構詳しくわかっているのは,スピカが黄道の近くにあって月による星食がしばしば起こるためで,月に隠される瞬間や月から出る瞬間の微妙な光量の変動を調べて得られた結果です.
また,スピカは白いことから連想されるように表面温度がずいぶん高く,約24000度もあり,強いX線源となっています.X線のいくらかは連星を成している星たちからの星風が周辺の物質と衝突して生じていると見られます.
デネブ |
はくちょう座の白い1等星.距離は1800光年,実視等級は +1.25,色指数(B-V)は +0.09.
別名でデネブ・エル・アディゲ,アリデッド,アリディフ,ガッリナ,アッリオフなどと言います.通常使われるデネブという名前は「めん鳥の尾」を意味するアラビヤ語のアル・ダナブ・アル・ダジャジャ から来ています.アリデッドは昔のアラビヤの星座名から派生したものですが,意味ははっきりしません.アリディフとアッリオフは「最後部」を意味するアラビヤ語のアルリデフから派生しました.はくちょう座の白鳥の尾に位置する星を言っているのは間違いないでしょう.ガッリナというのはラテン名で,「めん鳥」を意味しています.かつて星座の名前として使われていましたが,後になって星座の中の一番明るい星の名前として登場するようになりました.
デネブはスペクトル型が A2Ia という白色の超巨星です.距離は1800光年と推定されています.光度は太陽の20万倍ほど,質量は太陽の20倍程度と見られます.有効温度については7635度から10000度まで測定幅があり,9000度あたりが妥当なところです.このあたりにも超巨星ゆえの研究のむずかしさが表れているようです.
表面活動は活発で,星風が吹き出し,脈動的な振動もあるようです.水素の吸収線にはいわゆるはくちょう座P型星の特徴が現れていて,長波長側に輝線成分が見えています.これは高温大気が流れ出ている証拠です.それも形状が変化しますから,流量が変動しています.
1995年頃,ナトリウム過剰という問題がデネブに持ち上がりました.太陽に比べてナトリウム量が多く,これはデネブのようなA-F型の超巨星に起っている現象で,どうも窒素過剰と相関があるらしいという話でした.これまではこうした元素の量を正確に決めることが難しく,こんなことは問題にはなりませんでした.超巨星へ進化する途中でネオンがナトリウムに変換し,それが表面に湧きあがるからと説明されているようです.
ハダル |
ケンタウルス座のベータ星.距離は 530光年,実視等級は +0.61,色指数(B-V)は-0.23.
ハダルという名前はアラビア語で地面のことです.別名をアゲナと言い,アレンによればアルファのアとひざを表すゲナの合成語らしいということです.このルーツはラテン語のようです.しかし,ゲナというのはひざではなく頬という話もあります.
この星はB1III型の青色の巨星で,太陽の13,000倍もの光度があります.伴星があって,0.871秒(実距離にして140天文単位)離れています.スペクトルを見ると3.7時間および352日周期で巡っている別の伴星もあるようです.HR 3207と共に近くのガム星雲(とも座からほ座にかけて広がる直径30度の大きな散光星雲)を光らせているようにも見えます.水素の吸収線輪郭の変動が観測されており,質量放出量に変化があったためだろうと解釈されています.そこで,O4f, O4efなどのスペクトル型に分類されることもあります.
フォマルハウト |
みなみのうお座の白い1等星.わが国では南の一つ星とも称されることもあったようです.距離は 25光年,実視等級は +1.17,色指数(B-V)は +0.09.
フォマルハウトという名前はアラビア語で魚の口を意味するフム・アル・フトに由来します.ラテン名の別名があって,オス・ピスケス・メリディアニ,あるいはオス・ピスケス・ノティイと言い,南の魚の口の意味があります.ディフダル・アル・ディフディ,あるいはアル・ディフディ・アル・アワルというのは一番目のカエルのことで,2番目のカエルはくじら座ベータ星のディプダです.
距離は25光年と太陽系に近く,直径は太陽の約1.7倍,光度は太陽の17倍という典型的なA型の主系列星です.平凡な星で,自転速度が秒速100kmもあるためスペクトル線がはっきりせず,スペクトル線解析がうまくできないため,表面の性質はよく分かりません.有効温度(≒表面温度)については8800度,9090度,8562度,8580度,8640度といったデータはありますが,他の物理量についてはあまりデータが得られていませんでした.ところが,1984年,ベガとともに俄然,注目を集めることになりました.それは赤外線観測衛星IRASにより星の周囲にある塵が放射していると見られる赤外線が観測され,主系列のような平凡な星にも塵のリングがあることが分かったからです(同時に,かが座ベータ星もベガ類似と判明).その後,テキサス大学の研究者がカイパー空中天文台からも観測されました.塵の分布はいびつで,円盤状になっていると想像されます.その円盤は内側半径が22天文単位,外側が430天文単位あって,60度傾斜し,80ミクロンの塵からできている,というモデルが提唱されています.
プロキオン |
こいぬ座の1等星で,地球に近い恒星の一つ.距離 11.41 光年,実視等級 0.4,色指数(B-V) 0.42.シリウス同様連星で,伴星は同じく白色わい星です.スペクトル型はF5IV-Vで,有効温度は6500度,主系列から巨星への進化段階にあります.
プロキオンの名は昔からこいぬ座の星として知られていました.ギリシャ起源の元の名には「犬の前」の意味があります.しばしばラテン名のアンテカニスともされています.別名はエルゴマイサ,あるいはアルゴメイサですが,いずれもアラビア名のアルシラシャミーアーから導かれたもので,「北のシリウス」の意味です.
プロキオンはスペクトル型が F5IV-V の黄色の主系列から巨星へ進化しようという段階にあって,太陽の7倍の光度があり,直径は太陽の2倍です.主星プロキオンAと伴星B(10等級)は4.5秒角,約16天文単位離れており,周期40.65年で公転しています.
特に目立った特徴はありませんが,このことが逆に標準星として使われる要因となっています.ちょうど大気下層で対流が発生し始める温度領域にあって(プロキオン以下の有効温度の星では対流が発生する),この温度領域のよいサンプルになっています.自転速度が秒速6kmと比較的遅いためスペクトル線が鋭く,明瞭に見える上に,太陽と大きな温度差がないことから太陽のスペクトル線と比較もしやすく,最も良く調べられている星です.すでに40種以上の元素について定量が行われていて,太陽類似であることがはっきりしています.
1980年代の中頃,ハワイ大学のボースガード達がヒヤデスの星々を調べて6300度〜6900度の有効温度の星ではリチウムとベリリウムが主系列星の1%程度しか観測されないことを示しました.これは対流層の発生に関係していると見られていますが,原因は確定していません.この温度領域に入っているプロキオンもその例外ではなく,リチウム(やや確実性を欠くが)とベリリウムが欠乏状態となっています.
ベガ |
こと座の1等星で,分光標準星.七夕の織女星.距離は 25光年,実視等級は +0.00,色指数(B-V)は +0.00,スペクトル型は A0Va.
ベガの名は「なかば閉じた翼のわし」を意味するアラビヤ語のアル・ナスル・アル・ワーキから来ています.この名は元々はベガを含むこと座の3つの星につけられた名前でした.ワーキからウェガ,ベガとなりました.別名としては,フィディス,フィデス,フィディクラなどとも言います.これらはいずれもハープや琴を表すラテン語です.
1839年,ロシヤのプルコワ天文台のストルフェがベガの年周視差の測定に初めて成功しました.1838年から1839年にかけてベッセルやヘンダーソンとともにストルフェが恒星までの距離を最初に測るという天文学史上大きな業績を残しましたが,その年周視差測定の最初のサンプルとなったのがベガでした.ベガはまた太陽向点にも近いという特徴があります.太陽系全体は周囲の星に対し秒速19kmの速度で銀河系内を運動しており,その向っている方向を太陽向点と言います.1783年,いつかの星の固有運動からハーシェルが初めてその位置を推定したところ,それはベガからややヘルクレス座寄りのところにありました.
ベガは太陽光度の約50倍,直径2.6倍という高温の主系列星です.スペクトル型は A0Va で,これから推定される有効温度は9600度で,質量は太陽の3.3倍となります.ベガはまた,周期4.6時間のたて座デルタ星型変光星にも分類されています.1980年頃,ベガの化学組成に異常があり,太陽に比べて金属が少ない金属欠乏星であることが大阪教育大学の定金晃三と西村昌能によって明らかにされました.岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡による大きな発見の一つでした.その後,ベガの周囲を取り巻くように塵・ガス雲があることが赤外線観測衛星IRASの観測から示されました.
ベガは絶対測光(波長別の光の強度を何ジュールといったように実際のエネルギー単位で測定すること.他の星との比較から求める通常の相対的な測光ではありません)が行われている数少ない星の一つで,天体測光の基準となっています.恒星の明るさ(等級)はこのベガを0等として明るさの原点とし,さらにベガを基準にして精密に明るさを決めた2次測光基準星と比較して求めています.ベガはこの点で天文学上非常に大きな役割をになっています.北半球の中緯度地帯からほぼ天頂に見えるために基準星に選ばれたようです.
ベテルギウス |
オリオン座の脇の下に光る赤い1等星.距離は 500 光年,実視等級は +0.45,色指数(B-V)は +1.85.
他にはアルマンキブとも言います.ベテルギウスの語源は「中心体のわきの下」を意味するアラビアの一節リジル・アル・ジャウザです.アルマンキブという呼び方はアラビアでは「肩」を意味しています.
アルマンキブ=ベテルギウスはスペクトル型が M1-2Ia-Iab の赤色超巨星です.光度は太陽の約10,000倍,直径は太陽の約650倍で,6年程度の周期で0.4等から1.3等まで不規則に変光し,光度で2倍程度変化します.大きさも不規則に変動していて,直径が60%程度変化するという推測もあります.太陽をベテルギウスに置き換えてみると,ベテルギウス表面は小惑星帯まで延びてしまいます.ベテルギウスはまた,大質量星で,太陽の20倍もの質量があり,そのため寿命は短いと考えられています.すでに中心核の水素は枯渇し,墓場に向って進んでいる,という進化段階にあります.ベテルギウスはかなりの割合で質量を放出していて,数10万年以内に太陽質量程度の量を失っていると見られます.大気中の炭素と酸素は太陽に比べて不足気味ですが,老齢の種族であるとして素直に解釈できます.ベデルギウスには大きな殻状の塵雲がとりまいていて,その大きさはベデルギウス自身の約600倍で,角度にして29秒ほどに広がっています.これは赤外線望遠鏡では見えていて,膨張し続けていることが観測されています.そこには水蒸気も検出されています.
アメリカのマイケルソンは1920年,干渉計を用いてその直径を0.047秒角と測定しました.それから約75年後,直径2.5mのハッブル宇宙望遠鏡は,ついにその表面の模様を直接とらえることに成功しました.こうして,ベテルギウスは恒星表面のようすが直接見えた最初の星となりました.
ポルックス |
ふたご座の1等星で,全天で14番目に明るい星です.わが国でぎんぼしと呼んだところがあったと言うことです.距離は 34 光年,実視等級は +1.16,色指数(B-V)は +1.00.
ポルックスという名前はラテン名で、ギリシャではポリデウセスとされていました.別名はヘルクレスで,ヘラクレス名がラテン化したものです.カストルとポルックスの双子のうち,不死の運命をもった弟の方がポルックスです.
ポルックスはオレンジがかった色をした巨星(スペクトル型は K0IIIb )で,光度は太陽の約30倍,質量は4倍程度,直径は約16倍あります.表面温度は4896, 4900,4840度といったところです.連星系と言う研究者もいますが,確認されていません.距離は34光年と,絶対等級を定義する時の距離10パーセクにほぼ等しく,みかけの等級1.14等が絶対等級とほぼ同じとなっています.
これまでの例では,巨星は古い種族の星が進化した星で,その証拠に重元素が主系列星に比べて少ないということになっています.ところが,ポルックスの場合,鉄やカルシウム量は太陽とほぼ同じで,重元素は主系列そのものですから,決して老齢の星ではなく,つい最近,巨星に進化したばかりと考えられます.
宇宙空間から行われた観測では紫外線域に酸素などのイオンの放射する光が見つかっており,太陽と同じく高温のコロナが取り巻いていると考えられますが,X線放射は余り強くはなく,また磁場が検出されていないことから太陽コロナほど活発ではないようです.紫外域スペクトルにはけい素の3階電離イオン,炭素の3階電離イオンなどの輝線が観測されています.輝線が出るのは星の周りに星の表面より高温のガス,つまりコロナが取り巻いていることを示しています.これらのイオンは100万度程度の温度雰囲気で形成されるもので,太陽コロナよりやや低目の温度のようです.また,74から90km/sの速度でコロナ物質は運動していると見られています.
ミモサ |
みなみじゅうじ座のベータ星で1等星.距離は 353 光年,実視等級は +1.25,色指数(B-V)は -0.23.名前の由来はよくわかりません.別名ベクルックスとも言います,これはアクルックス同様アメリカの天文家バリットが命名したものと思われます.
ミモサは青い巨星で(スペクトル型はB0.5III)で,太陽の3200倍の光度と8倍の直径があります.分光連星で,0.1604日と 7 〜 8年の周期を持っています.干渉計の観測は近接した二重星あるいは多重星系のように見えます.伴星Bは 11.4等の F8V型星で,伴星Cは7.5等のB8型星らしいということです.さそりーケンタウルス・アソシエーションのメンバーのようです.
リゲル |
オリオン座の左足に輝く青い一等星.距離は 700 光年,実視等級は +0.18,色指数(B-V)は -0.03で,スペクトル型B8Ia の青色超巨星です.
リゲルという名はアラビヤ語で「中心体の左足」を意味するジル・アル・ジャウザから来ています.別名をアルゲバル,あるいは,エルゲバルと言い,明らかにアラビヤ起源であり,詩の一節からとられたようです.
小望遠鏡で見ても二重星になっていることがわかります.リゲルAは高温の青い超巨星で,光度は太陽の40,000倍,直径は60倍,表面温度は約12,000度で,質量は太陽の約20倍あります.7.6等のリゲルBはAから約9秒角離れていて,実距離は2000天文単位以上です.実はB自身が連星になっていて,両者は共にスペクトルはB5型です.AB共によく似たスペクトルなのに光度差が大きいのはAが超巨星だからです.
赤外スペクトルには彩層の存在を示す輝線が見え,弱い磁場もあるようです.25日周期の弱い変光(幅は0.06等)があり,その上10日程度でふらついているので,脈動も関与していると考えられています.
リゲルのような超巨星にはCNO量の異常という問題があり,進化との関連が指摘されています.青い超巨星は,いったん赤色超巨星に進化した後,青くなったのではないかと言われていますが,もしそれが正しければ主系列星に比べ炭素Cは少なく,窒素Nは多く,酸素Oは大差なし,ということになるというのです.CNOは主系列星時代に内部で作られ,進化するにつれて混合が起り,窒素の多いガスが湧き上がってくるからです.この現象がリゲルでも起っているのではないか?調べてみるとどうもそういう傾向は見えないようです.
リゲル・ケント |
リギル・ケンタウルスとも言い,ケンタウルス座の1等星.距離は 4.40光年,実視等級は -0.3,色指数(B-V)は +0.71.太陽系に最も近い星であり,最も近い一等星です.
リゲル・ケンタウルスの名はアラビヤ語のアル・リギル・アル・ケンタウルスという「ケンタウルスの足」を意味する語から来ていると言われていますが,どうも後世の造語のようです.別名トリマンとも言います.
三重星系です。Aがスペクトル型 G2Vの主星で,太陽と同じスペクトル型の黄色の星です.質量,直径,光度とも太陽より幾分大きいようです.BはAから約24天文単位(太陽ー天王星間は19天文単位)離れていて,79.9年周期で巡ります.
リゲルケンタウルスCはABから0.16光年離れている実視等級11.1等の赤い M5.5Ve 型の主系列の矮星で,太陽光度の17,000分の1 しかありませんが,プロキシマの名前でよく知られています.プロキシマは太陽系からは4.22光年の距離にあり,これが現在のところ太陽系に最も近い星です.
レグルス |
しし座の白い1等星.距離は 77光年,実視等級は +1.36,色指数(B-V)は -0.11.
レグルスは「小さな王様」を意味するラテン名です.レグルスの名は,この星が天のできごとを支配していると一般に信じられていたことと関係があると言われています.別名をレックスとも言いますが,これは「王」を意味するラテン語です.さらに,コル・レオニスというラテン名もあって,これには「ライオンの心臓」の意味があります.星座絵を描いた時,ちょうど心臓の位置にレグルスがあるからです.他には,アル・カルブ・アル・アサド,カベレセドという名前もありますが,これらはアラビヤ語で「ライオンの心臓」と同じ意味のことばに由来しています.
レグルスは高温の青い B7V の主系列星で光度,質量はそれぞれ太陽の約140倍,約3.4倍です.有効温度は12,000度程度と推定されます.直径は太陽の約3倍です.スペクトルに輝線 emission line が見えるので,スペクトル型に e をつけることもあります.
多重星系で,Aから4.2秒角離れたBCは近接連星です.4.2秒角は約100天文単位に相当し,太陽ー冥王星間の2.5倍です.周期2000年で巡っています.レグルスBはオレンジ色の K1V 型の主系列星で,実視等級は8.13等,光度は太陽の4分の1よりやや大きく,質量は70%,半径は80%です.レグルスCは13等の矮星で,太陽光度のわずか330分の1しかありません.
自転速度が秒速329kmもあるのが特徴で,スペクトル線は大きなドップラー効果を受けて広がり,線はあまり目立ちません.もともとスペクトル線が少ない温度領域にある上にこのような影響を受けているため,スペクトルは連続的になり,際立った特徴が見られません.実はこの特徴のないスペクトルが貴重な存在で,たとえば,地球大気による吸収線が同定できますし,放射理論との比較も容易に行えます.そのため,他の恒星や銀河のスペクトルの基準光源や比較光源としてよく使われています.