長谷川能三のHP蜃気楼  


「蜃気楼」とは?


 春になると、「富山湾で蜃気楼が見えました」といった映像がニュースで流れることがあります。 蜃気楼は、海面付近に冷たい空気、その上に暖かい空気があるときに見える現象で、温度によって空気の屈折率が違うために、光が屈折して起こります。 蜃気楼といえば富山湾が有名なのですが、それは富山湾をはさんで能登半島が見えるようになるから…だと私は長い間、思い込んでいました。 さらに他にも、蜃気楼についてはいろいろと誤解していたので、ちょっとまとめてあげてみると、
  1. 蜃気楼は富山湾でしか見えない
  2. 蜃気楼が発生すると、ふだんは水平線の向こうで見えない能登半島が見える
  3. 蜃気楼は誰もが注目するすごい現象だ
なのですが、これが私の誤解だったということは、蜃気楼はいったいどんなものなのでしょうか?

1.富山湾でしか見えない?
 確かに蜃気楼はどこででも見えるというものではありませんが、右の写真は私が2003年5月3日に滋賀県大津市のなぎさ公園おまつり広場という琵琶湖の湖畔で撮影した蜃気楼です。 国内では富山湾以外に、琵琶湖(大津市や滋賀郡北小松)、福島県の猪苗代湖、さらに北海道では小樽や苫小牧、野付半島など各地でよく蜃気楼が見られています。

2.水平線の向こうの能登半島が見える?
 例えば富山湾でも特に蜃気楼で有名な魚津市からよく見える蜃気楼は、海岸線にほぼ沿って北に約9km離れた生地という地域の姿です。 ふだんでも魚津から生地は見えているのですが、蜃気楼が発生すると、生地の建物が伸びたり縮んだり、時には一部が上下反対になったりと、ゆがんで見えるのです。
 確かに蜃気楼の中にはふだんは水平線の向こうで見えないものが見えることもあるようなのですが、ふつう蜃気楼といえば上に書いたようにふだん見えている景色が変形して見える現象なのです。

3.誰もが注目する?
 富山県魚津市では、春の天気のいい日には蜃気楼見物の人でごったがえすのですが…。 上の蜃気楼の写真を撮影した日、ゴールデンウィーク中の天気のいい日だったということもあって、琵琶湖畔には家族連れなど多くの人が集まり、釣りをしたりバーベキューをしたりしていました。 しかし、おそらく蜃気楼が見えていることに気づいていたのは、私を含め3人(あとの2人も蜃気楼を撮影するために来ていた人)だけでした。 というのも、蜃気楼で変形するの10kmくらい先の景色なので、双眼鏡があればよく見えるのですが、肉眼ではあまりわかりません。 この写真で左右が約3度しかありませんので、35mm版のカメラで700mmくらいの望遠レンズの画角に相当します。

蜃気楼はどんなふうに見える?
マウスカーソルを写真にのせると、説明が表示されます
 写真をよく見ると、右端にうっすらと観覧車が写っています。 これは、撮影したなぎさ公園から12kmほど離れた、大津市堅田にある琵琶湖タワー遊園地の観覧車(閉園していますが、取り壊されずに残っています)です。 上の写真では、観覧車の3本の支柱がほぼまっすぐですが、下の写真では、途中で折れ曲がっているかのように写っています。 これは支柱の途中から上は上下に縮んで、途中から下は上下に伸びて見えているためです。 これは、左の方に写っているビルでも同じで、下の写真を見ると、上の方の階の窓はほとんどわからないくらいつぶれていますが、下の方の階の窓は上下に伸びて大きく写っています。
 では、上の写真は蜃気楼が見えていないのかというとそうではなくて、ビルや観覧車の支柱の部分が上下に縮んでいて、そこから下の湖岸付近が上下に大きく伸びています。 非常にせまい範囲が上下に大きく伸びて見えているので、まるで湖岸に板塀が立っているような感じに写っています。

蜃気楼を見るには?
 琵琶湖でも富山湾でも、蜃気楼は4〜5月頃の天気のいい、気温がぐんぐん上がっていくような日に発生しやすいのです。 2003年、琵琶湖のなぎさ公園おまつり広場では、2月に1回、3月に2回、4月に6回、5月にも6回(5月1〜5日は5日連続!)、6月に2回蜃気楼が確認されています。
 富山まではちょっと…という方も、琵琶湖くらいまでならレジャーを兼ねて行ってみてはいかがでしょうか。 そのときには双眼鏡をお忘れなく。 写真を撮ろうという方は、望遠レンズを使うか、望遠鏡にカメラを取り付けるといいでしょう。 望遠レンズがない方は、デジタルカメラに双眼鏡を覗かせて撮影してみましょう。 うまくいけば写るかもしれません。

参考: 琵琶湖の蜃気楼情報 (http://www.biwa.ne.jp/~t-ban/)
魚津埋没林博物館 (http://www.city.uozu.toyama.jp/nekkolnd/)

大阪市立科学館 友の会 『月刊うちゅう』 2004年4月号より一部加筆・修正