2008年15
場所 工作室
参加者 8名

栄島さんが古典力学でのラザフォード散乱の導出法のレジメを作って来てくれたので、それをやった。あるインパクトパラメータ(衝突係数b)で入射した粒子がどんな角度θで散乱されるかをまず求めなければならない。ニュートンの運動方程式を適当な初期条件を考え2回積分すれば求まる。更に2πb/dbの竹輪の中の粒子がどの角度に何個散乱されるか考えれば、ラザフォードの公式が出るわけである。

当たり前だがほとんど素通りするはずである。原子核の傍を通る粒子だけが軌道が少し変えられる。大きく軌道が変わるのはほんの僅かだ。θ依存性は、〜1/sin(θ/2)^4 という強烈なものだ。

実際には量子力学でやらなければならない。教科書ではボルン近似を使った。いちいち式は証明せず、教科書には書かれていないボルン近似はどんな近似で、なぜボルン近似で良いのかをお話した。また、他のきんじでやったらどうなるか、ウエーブパケット(波束)でやったらどうなるかもお話した。(ちょっと平面波とフーリエ変換の話に脱線。)

我々が興味のあるのは、大きな角度で曲げられるイベントである。原子核のα線散乱では、クーロン斥力が働くので、大きく散乱される所までは容易にαは原子核に近づけない。当然、αのエネルギーは高く、相対論的な問題になってくる。相対論的なモット散乱は天下り的に。そして、我々が注目すべきはモット散乱(理論)と実験値とのズレである。そのズレの情報は形状因子に押し込められる。形状因子はターゲット(原子核)が点状であればいたるところ1である。すなわち、実験値とズレが生じるのは、原子核が有限の大きさがあるからである。

次回は、形状因子とは何か、形状因子からどんなことが分かるのかを学ぶだろう。さらに、エネルギーが高くなれば非弾性散乱(ターゲットの原子核を励起させる)が起こる。式の細かいところより、何が議論されているのかストーリーを捉えてほしい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜以下は昨年書いた1/5の予定〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

難しいですよ。
ラザフォード散乱を相対論的に拡張して、理論と実験とのズレを見ようというもの。
ラザフォード散乱は、
質点と質点との(クーロン力による)散乱です。
金とα線とか、陽子と電子線などのように入射粒子に比べターゲットが非常に重ければ、ターゲットの反跳が小さいので無視でき、問題が少しだけ簡単になります。
この散乱問題は本来、量子論的に解かなければならないのですが、(偶然にも)古典論的に解いた答えと一致してしまいます。
(※このような偶然は、ボーアの原子模型にも起こっていた!)
理論と実験を比較すると衝突係数が大きいとき(ターゲットから離れたところ)での散乱はラザフォード公式との一致が良いのですが、衝突係数が小さくなると(つまり後方散乱が起こる領域)では、公式とのズレが大きくなっていきます。この事実は、ターゲットがもはや質点と看做すことができず、大きさと広がりを持つ影響が顕れているのです。
しかし、非相対論的なエネルギーでは入射粒子は十分ターゲットに近づくことができません。さらなる情報は相対論的なエネルギーでの散乱実験で得られますから、理論も相対論的に拡張しなければなりません。その結果スピンの影響が出てきます(また、本当は場の理論の計算になるはず)。
相対論的なモット散乱の公式(相対論でよく出てくるβの因子が入ってますね!)と実験とのズレは、ファオームファクター(形状因子)に押し込められます。このフォームファクターは、ターゲット原子核の大きさや密度の広がりの情報を持つのです....。