空気は翼下面を叩かない
ブーメランのサイエンスショーのために、揚力のことをいろいろ調べたり、人に話を聞いたりすると、間違った概念を持っている人がたくさんいることに気付いた。
こどもの頃、飛行機の翼の下面に空気がぶつかり、その空気が飛行機を浮かべているのだと思っていた。ずっとそう思っていたような気がする。高校生のときも、ひょっとしたら流体力学を習う学生になった頃もまだそんなことを考えていたかもしれない。
だから、そう考えている人が多いことは驚くほどのことでもないのだが、その考え方が間違えていると言っても、いやこれで合っていると自説を曲げないのである。しかも物理やその周辺分野が専門の人間に特に多いように思う。
下面に空気がぶつかるという描像は単純で、とても魅力的なアイデアであるのでなかなかそれを捨てられないのだろう。
しかし、それは誤った描像であり、そんなことでは飛行機は飛べないのである。
ボーイング 747-400ER 諸元
全長 |
70.7 m |
全幅 |
64.4 m |
翼面積 |
541 m^2 |
重量 |
180.8 t |
最大離陸重量 |
412.8 t |
巡航速度 |
939 km/h |
航続距離 |
14,200 km |
エンジン |
GE製 CF6-80型 推力 274 kN 4基(25,930kg×4) |
ジャンボジェットを例にとり、この描像では全く飛行できないことを示そう。ジャンボジェットの翼面積Sは540m2、重さは300t。これが高度10000mを1000km/hで飛んでいるとしよう。
よく知られているように、揚力の大きさは迎え角にほぼ比例する。かなり大き目の数字だと思うがここでは迎え角αを10oとしておこう。sin10oは0.174だから、Ssin10o=94m2の面積を通る空気を考えればよい。飛行機の速度は280m/sだから、毎秒26000m3の空気が翼の下面に当たることになる。
高度10000mでの気圧は約260hPa、0.26気圧である。空気密度ρは0.3kg/m3となる。したがって、毎秒7.8tの空気が翼の下面にぶつかっていることになる。この空気がつばさによって、下方に10o曲げられたとしよう。下方に加速された速度は280×0.174=49mである。7.8×49=380だから、380kN(キロニュートン)の力が翼から空気に与えられたことになり、逆に空気は同じ大きさの力で翼を持ち上げる。380kNというのは、39tの重さを持ち上げる大きさである。しかしこれでは、とても300tのジャンボを持ち上げることはできない。
今まで書いたことを式で表せば、
L=ρSv2sin2α
である。揚力Lが翼面積Sや速度vの2乗に比例する性質は正しく現されているが、ジャンボを浮かせるには全く足りない。
下面にぶつかる空気が飛行機を支えていると考えてはダメなのである。
なぜうまくいかないのか?どうすればうまくいくのか?それは、翼の上面で何が起こっているのかを考えなければならない。