2006/9/27(大倉宏)

歳差と右ネジの法則

歳差運動の説明に代えて

 

ブーメランの物理で重要になるのは「揚力」「歳差」である。演示は揚力にスポットを当てる。歳差は時間と内容の難しさの制約からあまり深入りできないので、ここで身近な自転車を例に取り、ブーメランの歳差運動を理解する助けにしたい。

自転車を左に傾けると、勝手にハンドルが切れる。前輪が歳差運動を起こしたからである。

前輪は角運動量Lを持っている。自転車を傾けることは、力のモーメントNを働かせることを意味する。歳差運動とは、Nが働いたときLがどのように変化するのかに他ならない。

LもNもベクトル量であるが、ここでは大きさはうっちゃり、向きだけを問題にする。LやNの向きは右ネジの法則であらわすことができる。

親指を立てて右手を握り締める。人差し指から小指までが動く方向を回転の方向と一致させたとき、親指が差す向きが回転のベクトルの向き(右ネジを回したとき進む向き)となる。

手の甲を上にして(親指を立て)右手を握りこむ。握りこむ向きは前輪の回転する方向と同じになっている。このとき親指は左を向いている。従って、前進している自転車の車輪の角運動量Lの向きは「左」である。

次に自転車を左に傾ける力のモーメントを考える。親指だけ離し他の4本指は揃えて上を向くようにしてあなたの顔の前で右手を構える。右手を握りこむ向きは自転車が倒れ向きだ。(今、自転車を左に倒すことを考えている。)親指はあなたの顔の方を向いている。従って自転車を倒す力のモーメントNの向きは「後ろ」である。

力のモーメントNは角運動量Lを変化させる。式で表せばdL/dt=Nである。「左」を向いていた角運動量は、力のモーメントが働いたため「後ろ」へと変化する。親指を立てた右の親指の向きをググッと「左」向きから「後ろ」向きに回転させてもらいたい。それが正に車輪の動く様を表している。自転車を左に倒すと勝手に車輪が左に切れる理由がお分かりいただけただろうか。

 ブーメランにも上記と同じようなことが起こる。演示では、回転するブーメランの羽根が上にある時と下にある時で揚力の大きさが異なるから、力のモーメントが生じ歳差運動が起こることを見てもらうことになるだろう。ブーメランは倒れることなく、歳差運動を起こし、旋回する。ブーメランが戻ってくる理由がお分かりいただけただろうか。

ところが、注意深い人はブーメランは倒れるどころか起き上がり、最終的にはLを上に向けホバリングをすることに気づくはずだ。なぜそうなるのかは時間がないので、それは各自への宿題としよう。ヒントはこの現象もやはり歳差で説明できる(揚力差は羽根の上下だけではない)こと。

紙ブーメランの上反角はこの効果をさらに大きくするためにつけられる。