新しい展示を作る(1)ニギルト電池 2006年5月 このたび、新しい展示を製作しました。それは、4階の「人間電池」の内容をさらに補強するために製作したものです。今回は、とある化学展示の製作についてのお話です。 ◆化学の展示 現在科学館には、化学に関する展示が、元素の周期表や舎密局など13点程あります。できれば、ドイツ博物館のようにいろいろな化学反応を実際に見てもらいたいのですが、なかなかそういう訳にはいきません。消耗品である薬品の調整、廃液の処理など厄介な問題をクリアしなければならないからです。ここらへんが、一度初期条件を設定してしまえば、消耗ということを余り考えなくてすむ、物理系の展示や、標本などの展示などとは異なるところです。 ミュンヘンにあるドイツ博物館のように、約100点の化学反応の展示を維持するというのは、並大抵のことではできません。ドイツと比較するのもおこがましいのですが、現在の科学館の化学展示の数がわずかしかないというのはとてもさびしいものです。そのため、頭の中では、いつも何か新しい展示ができないものか、と考えているのです。 写真1.ドイツ博物館の化学反応実験展示。 こんなのが100点近くある。 ◆予備実験〜本番 2005年に行った「電池の実験」でのサイエンスショーで、没ネタになったものがありました。 その実験とは、酸化還元電位の差が大きい元素を電極にして、何らかの反応を起こせないかとしたものでした。簡単に言えば、イオン化列の端にあるものを選んで、電池を作り、電子オルゴールを鳴らそうとしたのです。なぜボツになったのかというと、ショーの構成上の問題もありましたが、何よりも実験道具の耐久性の問題があったのです。自分で予備実験を行っていたときは、成功したので、意気揚々と本番で実験を行ったら、一発で使えなくなってしまったのです。何がおきたのかというと…。 この実験で使用した電極になるものは、金箔及び、リボン状のマグネシウムをそれぞれ木の棒に巻きつけたものです。それぞれを正と負の電極にして、両手でしっかり握れるようにしました。 電極は、電子オルゴールにつながっており、両手で握り、ループを作ると音が鳴り出すのですが、乾燥ぎみの私の手では、しっかり握っても金箔がはがれるということはなかったのです。 しかし、本番の実験で新陳代謝の激しい子ども達が金箔の電極を握ると、金箔が手のほうにくっついてはがれてしまったのです。原因は、金箔を漆ではなく、スプレー糊で接着したことが考えられるのですが、あっけなくサイエンスショーの本番1回目で撃沈してしまいました…。 ![]() 写真2.手作りした電極右から2本目は金箔が はがれた物 ◆電位差の発生 この実験では、 金: Au++e− ? Au E゜=+1.68V マグネシウム: Mg2++2e− ? Mg E゜=-2.37V という酸化還元電位の差がありますから、この2つは良い電極になるようです。 しかし、これは溶液中の話ですので、単純にこの数字などを当てはめるわけにはいきません。実際、今回行おうとしているようなやり方では、この電位差4.05Vが発生はしません。 実際には、手の汗などでごくごく微量のMgが反応し、電子を放出した後、その電子が、金の電極の方へ移動し、金箔の表面や手のひらに付着している他の金属やイオン類と反応して電位差が生じるものと考えられます。 簡単な方法で、実測したところ、金とマグネシウムの組み合わせで1.7V、0.05mAでした。他にも、銀や銅も正極として準備してみました。 表.元素の違いによる発生した電圧と電流(実測値)
ちなみに銀と銅の酸化還元電位は、銀:E゜=+0.80V、銅:E゜=+0.52Vです。 この数字を見ている限り、電圧の発生については、かなりマグネシウムに依存しているように思われます。 それでも、電子オルゴールを鳴らせるだけの電位差及び電流が発生することは間違いありません。さあ、これをどういう形で展示化していくのか。 続く…。 |