新しい展示を作る(2)ニギルト電池    2006年9月


 廃棄物の出にくい化学の展示…。これなら、できそうだということでサイエンスショーの時のアイディアを具体化していくドキュメンタリー、第2弾。

◆電極はどうする?
 金、銀、銅を正極に、マグネシウム(以下Mg)、亜鉛、アルミを負極にという組み合わせが、材料として入手しやすく、修理も簡単ということで、これらを電極とすることにしたのは、サイエンスショーの開発時でした。しかし、実際にこれを展示にした場合、どんな形に加工したり、どう取り付けたりしようかという問題も発生します。
 まず、金、銀は高価であるため、また亜鉛はちょうど良い形状の部材がないため、メッキをすることに決めます。残りの銅とアルミとMgですが、銅とアルミは展示を作ってくれる業者さんが用意してくれました。Mgについても、ちょうど良いものがなかったので、私が幅5mm程度のMgリボンをスチールに巻きつけていくことにしました。それも両面テープで。ただし、強力なものを使っているので、そうそう簡単にはがれるということはありません。

◆全体の構造
 電極は、この展示の最も肝心な部分ですが、全体のほんの一部分でしかありません。 まだ、展示物の形状や大きさをどうするかという問題があります。小学校中〜高学年から展示を体験できるようにサイズや仕様を決め、さらに製作してくれる業者さんのアイディアを入れて、図面を起こしてもらうのです。
 この展示には、何のギミックもないということを示すために配線などが見えるように製作してもらいました。しかし、ある日その展示を作ってもらっている時に業者さんから、泣きの電話が入りました。「オルゴールが鳴らないんですが…。」さあ、一大事!このまま、音が鳴らなかったら展示ができません。

 実はこのとき、業者さんには、肝心のMgの電極をまだ渡していなかったのです。私がまだ作っていなかったため、業者さんは亜鉛や金などの電極だけで動作を確認せざるを得なかったのです。前回述べたとおり、この実験にはMgが必須です。もちろん、亜鉛やアルミニウムと金などとの組み合わせでも、電圧は発生するのですが、オルゴールを鳴らすまでにはいたりません。

溶液中における理論値は、(標準水素電極)
   Zn2+ + 2e ?Zn E゜=−0.76V Al3+ + 3e ?Al  E゜=−1.66V
亜鉛やアルミと金での実測値は、下表のとおりです。参考までに、Mgの時の数字も示します。
元素名 発生電圧(V)
亜鉛 0.85
アルミ 0.56
マグネシウム 1.7


 今回の展示の電圧発生は、かなりMgに依存しており、他の金属を使用した場合では、電子オルゴールを鳴らすまでの電圧(約1.5V)を稼げず、音が鳴らなかったのです。
 巻き付けを終えたMgの電極を持ち帰ってもらい、実験したら見事オルゴールは鳴りました。
 できれば、亜鉛やアルミと金などの組み合わせでも音が鳴ってくれれば良かったのですが…。

◆納品、そして展示場へ
 そして某日、業者さんが完成した展示を納品してくれました。
納品時の展示チェック


ラベル貼り付けで悩むの図。位置決め、文字の大きさ、
必要情報、漢字の使用等いろいろ悩むことが出てきます。


 とても綺麗に仕上げてもらい、感動です。ただし、操作説明などをつけていないので、後日それらを取り付け、展示場4階、人間電池の隣に設置しました。    
 どちらも同じ、酸化還元電位をテーマにしている展示ですが、音が鳴るということが、やはり人を驚かせます。時々この展示のようすを見るため、展示場に出て、お客さんにやり方などを伝えます。すると、この実験に感動して必ず、一緒に来た友達などに実験してみろと薦めてくれるのです。これがうれしいですね。

 肝心の化学的な意味は、ここからつかむのは、まだ難しいですが、隣の「人間電池」の展示とのあわせ技で、なにやらこれが電池の仕組みになるのかなということに気づいてもらえば、まずOKです。

 展示場に出して、数ヶ月たちましたが、今のところトラブルフリー。しかしよく見ると、亜鉛の電極が変色していたり、Mgが溶けて薄くなっているような気がします。サイエンスショーの企画から数えて約1年半、他にも誌面には書ききれないほどの要件をクリアして展示化できました。
 まだ体験されていない方は、ぜひぜひ、4階展示場で体験してください。

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