薬って何?毒って何?その23 ドイツ博物館

この冬、ヨーロッパの博物館を見てまわるチャンスがあり、あちこちと見てくることができました。その中で、薬や毒といったテーマに関係する展示をドイツの博物館で見ることができました。今回は、そのことについてのお話を。

生化学の展示
ドイツ博物館では、2000年5月に「You are chemistry」というテーマで生化学を扱う
    ドクター解説中 サルバルサン(左)とその後の薬
展示を始めました。それまで、100点近い化学反応を見せる展示装置はあったのですが、もう少し来館者に身近に化学を感じてもらうという意味なども含めて、人間の体の中の化学に関する展示を作ったのです。製薬、生薬、病気、ホルモン、体の中の化学反応等々について解説を行っている展示場でした。展示を製作したのは、Drフェルファーマー氏。生化学の専門家で、約3年がかりで展示を製作したとのこと。世界中でも、常設展示で化学をやっているところを数えるくらいしか知らないのに、生化学に特化した展示をつくるとは…。結構贅沢な展示の作り方だなとうらやましく思いました。


難しい展示の中身
 では、ドイツ博物館の生化学の展示内容はどうかというと、身近に化学を感じてもらうために作ったという割には、とても難しいのです。それは、単にドイツ語で書かれているからということではなく、扱っている内容が難しいのです。「何故、性欲があるのか」などといきなり問われて、それは、ホルモンのせいです、そしてその働きは…、といったことから始まっていました。またその近くでは、エイズの話もきっちり押さえてありました。このあたりは、どうもドイツ国内の若者たちの事情を考慮して作られたようです。その後は、細胞内でウイルスがどのように働いて、悪さを働くのかも解説していました。また、以外にも日本人が紹介されていました。それは秦佐八郎。

 彼は、1910年ドイツで梅毒の特効薬サルバルサンをエールリッヒとともに発見し、その後の化学療法という治療方法を確立するきっかけになった人です。  それから、室内にいろいろな木を植えていました。前ページ上の写真、ドクターの後ろに移っている植物がそうです。実物だといっておりました。実際見た目、本物のようなのですが、結構大きなイチョウの木などがあり、ちょっと怪しい気もしました。そこにある木は、いずれも薬として働く化合物を有するもので、医学的に確認の取れているものをおいたそうです。いずれの展示も解説文が怒涛のごとく記されていました。そしてそれらを読む高校生以上と思われる来館者たち。ドイツ人は議論好きといわれていますが、それと同じくらい大量の文章も熱心に見るのでしょうか。

     
化学情報の端末と対峙する来館者。
長いこと見ていました。ちなみにイス
は錠剤の模型です。
 中世の薬草を入れていたつぼのディスプレイ
ドイツ博物館で生化学の展示を作れたのには、その土台となるものがあったのです。
それは、中世の教会などで薬草を収めていたつぼのコレクション。もちろん中身はありませんが、昔の薬の取り扱われ方がわかる感じでした。これらを元に、この企画が生まれたそうです。19世紀にリービッヒが活躍して以来、ドイツの発達の歴史は、化学の発達の歴史と言えるでしょう。だからこそ、ここでは、古くから化学の展示物を他の科学館などとは比較にならないほど展示してきたのだと思われます。 「参りました。」といわずにはいられないほどの量そして内容でしたが、大阪でも同じように化学に関する展示ができないかなと不遜にも思ったのでした。  
(2003.2記)

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