〜飲み過ぎ、食べ過ぎには注意しましょう。過ぎたるは及ばざるがごとし、です。と締めくくってくれた月刊うちゅう1999年5月号の岳川学芸員の書いてくれた「化学のこばなし」。そうだよなあと思いつつ読んだのですが、普通に飲んだり食べたりして身体に何ともなくても、とり過ぎると害になるようなものってありますよね。砂糖や塩、お酒等々。そして薬も取り過ぎると却って害になってしまいます。今回の話はそんな薬や毒の話をしましょう。

1.「薬」と「毒」の区別
病院や薬局でさまざまな薬を買いますが、薬って何でしょうか。薬は薬事法で「医薬品」と「医薬部外品」の2種類に分けられます。では、医薬品とは何かですが、

   a. 日本薬局方に収められているもの
  b.人や動物の病気の診断、治療、軽減等に使用するもの
  c.人や動物の身体の構造や機能に影響を及ぼすもの

とされています。 そして、医薬部外品とは、

   a. 吐き気等の不快感、体臭を防止する
   b.あせもやただれの防止
   c.脱毛の防止、育毛または除毛
   d.人や動物の保健のために行うネズミ、ハエ、カ、ノミ等の駆除、防止

を目的としたものとされています。要は、身体の治療や予防に使うのが医薬品で不快感等を和らげるのが医薬部外品といえるでしょう。例えば普段、歯磨きでつかうハミガキ粉には「医薬部外品」と書いてあります。 では、これら薬と相対する立場にある毒(薬)とは何でしょうか。これらは、厚生大臣が指定するもので「毒(薬)」は、飲み込んだ場合、おおよそ体重1kgあたり20mg以下で死に至るものとしています。また、「劇(薬)」もあり、これは飲み込んだ場合、体重1kgあたり300mg以下で死に至るものとなっています。 体重が60kgの人間だと致死量が口から入った場合1.2g以下のものが毒で、18g以下でものが劇薬となります。

 他に、毒物・劇物という「毒物・劇物取締法」で規定された物質もあります。



2.どうやって毒性を調べる?
 薬や毒の効能や危険性といったものはどのような方法で決めているのでしょうか。マウスやラット等の小動物が使われているのはご存知かと思いますが、問題はその判定法です。まず、新薬ができたときこの薬がどの程度効くのかをある集団のマウスを使って調べると、おおよそ図1の様になります。この図を見ると半数近くの個体に効果がでる所でグラフが大きく変化しています。つまりこの近辺で多くのマウスに薬の効果が現れ、用量と効果の関係を調べるのに感度が良い事が分かります。この時の薬の濃度を50%有効量=ED50(effective dose 50)といいます。また、同様にある毒(薬)をマウス等に与えた場合どのような致死率を示すかを示すとやはり図1と同じような曲線が得られます(図2)。




 これも、ED50と同じように半数近くの個体が死んでしまう薬の濃度を調べることが非常に有効です。この時の毒(薬)の量を50%致死量=LD50(lethal dose 50、)といい、LD50が小さいほどその薬の毒性が高いということになります。


3.身近な毒物
新聞紙面等で騒がれていたさまざまな毒物がありましたが、あのような人工の薬品以外にも私達のまわりには天然毒がたくさんあります。 まず、ハチ毒。
私の知り合いにもミツバチに刺されたり、秋にスズメバチに太股を刺されてものすごく苦しんだ人がいます。ハチに刺されると下手をすると死にいたりますが、ハチの持つ毒の成分はミツバチとスズメバチでは違っています。まず、ミツバチの毒の40〜50%は、メリチンと呼ばれる物質で、グリシン、アラニンなどといったアミノ酸によって構成される分子量2900ほどもある強塩基ペプチドです。このメリチンは、細胞を溶かす作用を持っています。また、スズメバチは、チラミン、ヒスタミン、ドーパミンなどといったアミン類により発痛します。そして、蜂に刺されて死んでしまうのいうのは、毒中の高分子タンパク質が免疫グロブリンE(IgE)と呼ばれるアナフィラキシー=ショックアレルギーを引き起こす原因物質を作るからです。この物質の影響で大量のヒスタミンが体内に生じ、ショック、呼吸困難、血圧低下等を招きひどい時には死に至ってしまうのです。

過去にハチに刺された人→「IgG」もしくは「IgE」 を作る

再びハチに刺されるとIgE+ハチ毒→IgE抗原
             ↓
     大量のヒスタミンが発生
             ↓
       アナフィラキシー



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