「またヤニ虫が歩いている…。」通勤などで歩いていて、喉がひりひりするとたいてい、前の方に咥えタバコの人がいます。迷惑な煙と思うと同時に、よく煙を吸い込むよなあと思います。"嗜好品"は個人の好みによるものだから別に構わないのではという人もいますが…。今回は、そのタバコについてみていきましょう。

喫煙人口
 今、日本でタバコを吸う人はどれくらいいるのか。昨年(2000年)、JTが調査した結果によると、男性が53.5%、女性が13.7%、それぞれ、対前年度で0.5%、0.8%の減少になっています。去年までの動きでは、男性の方の喫煙率は年々減少していますが、女性の方はほぼ横ばいか少し増えていたようです。アメリカ、フランスなど他の先進国と比較すると男子では10%以上高くなっています。しかし、女性の方は他の先進国が20〜26%の喫煙率で、それらと比べると低いのです。個人的には、喫煙率が下がりつつあるのは喜ばしいかぎりですが、タバコの葉などを作っている農家やタバコ会社にとっては由々しき事態でしょうね。

それにしても、何故タバコを吸っている人がタバコを止めようとしても止められないのか。それは、皆さんご存知、ニコチンのもつ特性のせいなのです。


喫煙人口(推定値)
  2000年  1999年 
  男 性    2600万人   2608万人 
  女 性   713万人   749万人
算出の基準となる成年人口は総務庁が、2000年4月に発表した確定値。男性4,860万人、女性5,202万人。


タバコが止まらない
ニコチン(C10H14N2)は、タバコの葉の主アルカロイドで、分子量164.24、無色の油状物質です。

      ニコチン

吸湿性が有り、すぐ褐色に変化します。人体への作用としては、交感、副交感神経節や運動神経を初め刺激し、後に麻痺させる作用があります。 そして、心拍数を増加させたり、血圧を上昇させたりするのです。また、末梢血管を収縮もさせ、場合によっては手や足などに流れる血液の量を半分にしてしまうというデータもあるそうです。 少量のニコチンは興奮性をもたらし、多量に取ると抑制作用を示すという2面性を持っています。さらに、「多幸感」と呼ばれる精神的高揚をもたらし、これが強い常習性をもたらす原因にもなっています。前回のカフェインも弱い常習性を持っていますが、ニコチンにはかないません。

 さらに、カフェインと違うのはカフェインが胃腸等からゆっくりと吸収されるのに対し、ニコチンはタバコを吸ってから10秒後には脳へ到達するといわれるほどの即効性をもっていることです。つまり、急激に血中のニコチン濃度を上げることができ、消化管からゆっくり吸収されるものなどに比べて、はるかに強くのその効果が自覚できるのです。そして、ニコチンが切れると、イライラしたり不眠になったり不安な気持ちになる、集中できないなどの症状があらわれ、タバコに依存したくなるのです。


タバコの毒性
では、タバコの中にはどのくらいのニコチンがあるのか。タバコによっていろいろ差があるようですが、一本あたり7〜25mgの量が含まれています。そしてニコチンは非常に強い毒性があります。人に対する経口致死量は、成人では30〜60mgといわれています。ですから、体重の少ない子どもなどはその半分の量でも致命的になります。タバコなど食べるわけないと思うかもしれませんが、乳幼児の誤飲事故で一番多いのがタバコだということはご存知でしょうか。ただ、誤って飲み込んでも、胃酸中、つまり酸性溶液下では、ニコチンが溶け出しにくいので時間的な猶予があり、吐き出させるなどすれば大事に至りません。危ないのがニコチンの抽出液です。 よく、コーヒーやビールの缶を灰皿代わりにする人がいますが、缶の中の水で、タバコからニコチンが抽出されています。これを誤って飲んでしまうとタバコを食べるのとは比較にならないほど、非常に危険な事になります。
 そして、タバコで問題なのは、なにもニコチンだけではありません。たばこの煙には4000種以上の化学物質が含まれていますが、その中の有害な成分の一部を表に記しました。


タバコの毒性物質(一部)
物質名 生物活性 量/本
ベンゾピレン  腫瘍創始物質  〜50ng
ベンゾアントラセン     〃 〜80ng
ピレン 発ガン促進物質 〜200ng
ナフタレン類     〃 〜10μg
1‐メチルインドール     〃 〜0.9μg
ニッケル化合物  発ガン物質 600ng
ニコチン 有害物質 〜25mg


 これらを私達はのんだりのまされたりしているのです。 多くがナノグラムという非常に小さなオーダーですが、実際に存在するのですから注意が必要です。ヒ素などはμgとかなりの量が存在しています。他にも猛毒のシアン化水素なども存在しており、体に悪影響を及ぼします。そして喫煙者が吸うのは主流煙と呼ばれる煙で、フィルターを通っているため、有毒成分が少なくなっています。実はタバコの点火部から出ている副流煙のほうが、毒性が高くなっています。ベンゾピレンは3〜4倍、ニコチンは3倍、一酸化炭素は4倍も副流煙のほうが多く含まれています。喫煙者を持つ配偶者(非喫煙者)が肺ガンにかかる率は、そうでないカップルに比べて明らかに多いというのが疫学的に示されています。そしてもちろん、たばこを吸う人にとっても身体的には有害であるのは、昔からいわれていることです。こうなると単なる嗜好品ではなくなりますね。

最後にWHOのコメントを紹介しましょう。「タバコは病気の原因の中で、予防できる最大の単一原因である。


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