とある夜、用があって外出しなければならなくなり、車に乗って走り出したところ、家を出て最初の交差点で『検問中』の大きな文字。後ろめたいことは何もしていないのに、「まずいっ!」と心の中で叫ぶ私…。一旦停止させられ、窓を開けると、「すみません、一寸よろしいでしょうか。この筒の先に息をかけてくれませんか…。」もちろん、お酒を飲んで運転していたわけではないので何の問題もなかったのですが、お酒を飲んでの運転は御法度ですね。今回は、そのお酒の中のアルコールについての話を。

二度と飲むか…愚者の独白
 とある本によりますと、今から7000年前以上のイランの遺跡からブドウに多い酒石酸と、ワインの劣化を防ぐためのオレオレンジという樹脂が発見されたそうです。つまりその当時から、人はお酒を飲んで陽気になったり、大騒ぎしたり、調子にのって飲み過ぎ二日酔いになる人達もいたことでしょう。現代でも、性懲りもなく宴会の次の日、「二度と飲むか…。」と繰り返す人も多いはずです。では、なぜ、この二日酔いが起るのでしょうか。

 高校の化学で習うエタノールの酸化反応。酒を飲むようになって理解した人もいるかもしれませんね。体内に取り込まれたエタノール(C2H5OH)は、胃や腸から吸収されますが、異物とみなされるため肝臓にあるアルコール分解酵素(ADH:alchol dehydrogenase)が、分解しアセトアルデヒド(CH3CHO)に分解します。エタノールも毒性があるのですが、それ以上に、アルデヒドには毒性があります。そして体内ではアセトアルデヒド分解酵素(ALDH:aldhyde dehydrogenase)によって酢酸(CH3COOH)になり更にそれが、クエン酸回路に乗ってCO2と水になり体外へ放出されます。 クエン酸回路とは、生物の体内で非常に重要な反応で、ブドウ糖などの糖類、酢酸などの脂肪酸、その他多数のアミノ酸から生じた物質を分解していくものです。
 この時にATPも生じ体内のエネルギー源を生成するのです。つまり生物が生きていくためのエネルギーを得るための反応なのです。


角丸四角形:  C2H5OH → CH3CHO →(クエン酸回路)→CO2,H2O
           ↑                ↑
          ADH          ALDH         ATP(アデノシン3リン酸)










 図.アルコールの代謝


血中濃度

 エタノールの血中濃度 では、エタノールやアルデヒドの体内どんな働きをするか見てみましょう。エタノールは先程述べた通り、体内では、異物です。いろいろ数値はあるようですが約300mlで致死量になります。ウイスキーボトル1本を一気のみしたら非常に危険ということです。体内に取り込まれたエタノールはADHが分解していきますが、その水面下ではより毒性の強いアセトアルデヒドが生成されています。
エタノールによってその特性、脳と中枢神経の抑制によって平衡感覚が鈍る、倫理観が外れる、人格の押さえられていた部分が出現します。また、思考力、判断力等が低下し、不安、緊張等が抑制され多幸感を出現させます(表参照)。
そのおかげで、アルデヒドの毒性が陰に隠れており、ある程度までは、気分良くお酒を飲めるのです。

表.血中のアルコール濃度と症状
血中濃度(mg/dl)  酒量 症状
爽快期 20〜50 ビール大ビン(〜1本) 日本酒(〜1合) ウイスキーシングル (〜2杯) 全身の熱感、疲労感の回復、食欲の増進、軽い酩酊状態 →皮ふが赤くなり、陽気になる。判断力が少し鈍る。
ほろ酔い期 50〜100 ビール(1〜2本) 日本酒(1〜2合) ウイスキーシングル (3杯) 発揚状態、多動・多弁、ときに易怒・ 刺激性 →ほろ酔い気分になる、理性が失われる、体温が上がり、脈が速くなる。
酩酊期 100〜300 ビール(3〜6本) 日本酒(3〜6合) ウイスキーダブル (3〜5杯) 歩行障害、情動不安定、車の運転不能、全般的中枢神経系の障害、知覚障害、泥酔状態 →千鳥足でまともに歩けない、大声でがなりたてる、何度も同じ事を喋る、吐き気・おう吐が起きる。
泥酔期 300〜400 ビール(7〜10本) 日本酒(7合〜1升) ウイスキーボトル (1本) 知覚の消失・昏睡状態 →意識がはっきりしない、言語がめちゃくちゃになる。
昏睡期 400〜500 ビール(10本以上) 日本酒(1升以上) ウイスキーボトル(1本以上) 呼吸中枢の麻痺、死亡。


死なない程度の深酒をした後おこる二日酔いは、1つはエタノールによる利尿作用によります。ワインを2杯、約250ml飲むと数時間後には、500mlの尿が出てしまい、体内の水分が不足してきます。そして、アセトアルデヒドによって頭痛、むかつき、更なる脱水がおこり、苦しい二日酔いになるのです。エタノールやアセトアルデヒドを分解するADHやALDHは、決まった速度でしか仕事をするとができないため、処理能力を越えた量の物質が入り込むとすぐにパンクしてしまい、エタノールやアルデヒドの作用で苦しむことになってしまうのです。


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