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さて、ホームズが、事件がない暇な時になると、精神を高揚させるためにある薬を使っていました。そう、コカインを注射して退屈しのぎをしていたのです。そして、よくワトソン博士を嘆かせていたものです。当時、実際のイギリス社会において、こういった薬にどのような規制があったのかはわかりませんが、現在こんなことをしてしまったら、間違いなく留置所行きです。前置きが長くなりました。ホームズが使っていたというより、作者のコナン・ドイルが使っていたのではないかといわれるコカインとはどんなものか次に見ていきましょう。
コカイン
まず、コカインとは何かを、化学辞典で引いてみました。
コカイン:C17H21NO4分子量303.36コカノキ科コカ葉から得られる主要なコカアルカロイド。局所麻酔作用や散瞳作用を有し、中枢神経系に対してまず興奮作用を起こし、次に抑制して麻痺をおこす。習慣性による中毒を引き起こすので麻薬としての取扱いを受けている。融点98℃
沸点187℃水にはほとんど溶けないが、エタノール等にはよく溶ける。(一部抜粋)
アルカロイドとは、主に植物から採れる塩基性の窒素化合物で、生理作用を持つものをさし、ニコチンもその仲間に属します。そして、コカインは麻酔作用を持つので薬として使用する場合はコカイン塩酸塩という状態にして、水に溶けるようにしてあります。ただし、現在はコカインの急性毒性の耐性が個人によって差が大きすぎるということで使用されていません。
また、コカインは「麻薬及び向精神薬取締法」という規制がかけられており、一般に入手する事はできません。
もちろん非合法に入手すれば、持っているだけで(誰かに売るとか目的がなくとも)7年以下の懲役を課せられてしまいます。このように非常に厳しい規制がかけられている薬なので、私も本物を手にした事はありません。
コカ葉 ←CaO,H2O,灯油 希硫酸
↓
希硫酸溶液
↓
↓← CaO等でアルカリ性にする
↓
コカペースト沈殿
↓
↓←希硫酸+KMnO4 ろ過して、NH3aq でアルカリ性にする
↓
コカインベース沈殿
↓
↓エーテル HCl−アセトン
↓塩酸コカイン沈殿
コカインができるまで(現代化学99年7月号より抜粋・改編)
コカインの作用
ホームズが注射をして気分を高揚させていたように、コカインには気分を高める作用があります。「ジキル博士とハイド氏」の作者スティーブンソンが、この作用を利用して3日3晩で原稿を書き上げたのも有名な話です。このような精神高揚作用を持つコカインは、コカコーラの語源にもなっています。1886年にアメリカジョージア州の薬剤師J.ペンバートンがコーラナッツとコカインの抽出液、そしてワインを混ぜたものを売り出しました。そして、禁酒法によってワインを抜き、コカインの毒性が明らかになると代わりにカフェインを入れ始めて現在のコーラの原型が出来上がりました。
コカインの他の作用として、空腹感がなくなる、元気が出る、多弁になるといった症状がでます。これは、コカインが神経の休養をつかさどる副交感神経の働きをブロックし、交感神経が刺激されたままになるためです。ヘロイン等のように薬がきれたとき肉体的苦痛を伴ないませんが、精神的な依存が強く、簡単に中毒になってしまいます。そして、最終的には、脳内出血、動脈破裂、精神系統の発作、脳機能の破壊による呼吸困難などで死に至ります。
現在、薬物の乱用が社会問題になっています。ここ数年毎年1万5千人以上の人が覚醒剤、大麻、麻薬等の薬物の不正取扱いで検挙されています。モルヒネは鎮痛剤として使われ、末期ガンをわずらっている人々にはなくてはならない『薬』となっていますが、それ以外はほぼ人間にとっては必要ない『毒』そのものといえます。
今回は、内容的に「化学のこばなし」として相応しいかどうか疑問ですが、いかがでしょう。次回は、もう少し身近なところの話題について触れていきます。
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