これまで、薬の効果や、ハチの毒、コカイン等について話をしてきましたが今回は、身近な所にある薬品について解説をしていきましょう。主に、汚れを取ったりする薬品についての簡単な解説です。


1.酸性洗浄剤
 皆さんは、酸性洗浄剤といってパット思いつくのは何があるでしょうか。さまざまなものがありますけれど、サンポールを思い出される方が多いのではないでしょうか。サンポールにもたくさん種類はあるのですが、トイレ洗浄用が一番メジャーでしょう。基本的にトイレの汚れを落とすには、酸性タイプの洗浄剤がよく、尿石等の汚れ(黄ばみなど)を綺麗に落としてくれます。ほかにも十円玉の汚れなどもサンポールの洗浄力で落ちますね。これは、この液の中の塩酸HClによって汚れのもとが分解されていくためです。他にお風呂の洗浄剤にも酸性タイプがあります。


2.塩素系漂白剤
 衣服などに付いた果汁やコップなどの水あか、茶渋などを落とすのに使われる漂白剤は、次亜塩素酸ナトリウムNaClOを含有しています。塩素系の漂白剤はその作用が強く、繊維では白物しか漂白できない(しない)のは、皆さんもご存知かと思います。 NaClOは他にもプール、工場などで滅菌・消毒などにも使用されます。NaClOは徐々に分解していき、非常に活性な酸素原子を放出し、この酸素原子により、汚れが分解されたり、消毒されたりするのです。

   NaClO→NaCl+(O)


3.塩素の漂白作用
  さて、塩素が漂白作用を持つということは、18世紀後半スゥエーデンのシェーレが花の色が脱色することで発見しました。そして、その性質を利用して木綿のさらしを行うことに、ベルトレという化学者がこの塩素を使ってはどうかと考えたのです。 蒸気機関で有名なワットもベルトレから話を聞き、自分の工場で塩素を使ったさらしを行ったようです。しかし、塩素は非常に高い毒性を持つためその後、生石灰水に塩素を通して毒性の少ない次亜塩素酸カルシウムが発明されたのです。


4.混ぜるな危険
 現在、酸素系や塩素系の薬品には「混ぜるな危険!」の文字が書かれていますが、こうなったのも過去に不幸な事件がおこったからです。1986年には徳島県で、1989年には長野県で塩素系漂白剤と酸性洗浄剤を混ぜて使用したため死亡した人がいます。この薬品を混ぜると塩素ガスが発生し、それを吸引したのが原因といわれています。

NaClO+2HCl→NaCl+H2O+Cl2↑

風呂場や、トイレなどの狭い空間を密閉した状態で清掃をしていたためにこのようなことが起ったようです。また、私は直接知らないのですが、1976年、大阪のとある工場で、硫酸を運んできたトラックが間違ってNaClOのタンクに入れたため、塩素ガスが発生し100人以上が病院に運ばれた事故があったそうですが、ご存知の方いらっしゃいますか? さて、1900年代前半、ドイツの化学に関する力は世界一を誇っていました。これは、ドイツ化学の父といわれるリービッヒ以来の化学教育の成果でした。いくつもの大きな化学会社が興り、さまざまな化学薬品を発明、製造していたのです。塩素は、以前から用途があったのですが、この当時、水の消毒剤としてとしての使用も増えていました。そのような中、第1次世界大戦が勃発し、化学力を駆使したドイツ軍が1915年4月に塩素を毒ガスとしてフランス軍に対して使用しています。塩素は、薄い緑色の気体で空気よりも重く、催涙性や眼、皮膚、気道に対しての腐食性、ガス吸入による肺水腫をおこす危険性があります。空気中1ppmまでが人間にとっての許容限度といわれています。塩素系の薬品を使うときは十分ご注意ください。もちろん単独でNaClOを使うときも換気しましょう。


 身の回りを綺麗にすることはいいことです。しかし、そのために巷に氾濫しているものをすぐに、そして大量に使うのはいかがなものでしょうか。以前CMで台所の汚れをとるため、大量に洗剤を使い、最後に「ああ綺麗になった」というものがありました(洗剤などのCMは多かれ少なかれそんな感じですが…)。 それを見た瞬間「汚れとともに、あんたが使った大量の合成洗剤はどこへ行ったの?」とツッコミを入れてしまいました。環境がどうのこうのと偉そうなことを言うつもりはありませんし、「買ってはいけない」のようなことも言いたいわけではありません。ただ、ほんの少しでいいから、化学薬品を使っているということはどういうことなのか考えて欲しいと思ったのでした。



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