18世紀のある鉱山での出来事です。鉱夫達は、ビスマス(Bi)を掘り当てると、早く掘り出し過ぎたと言っていました。なぜなら、彼らは、Biが転換して銀ができると信じていたからです。当時Biは「銀の屋根」といわれ、Biを掘り当てるとその下には銀が見つかるので必ずしも鉱夫達は落ち込んだわけでもないそうです。Biは15世紀頃には白色の顔料や、グーテンベルグによって発明され世界に革新をもたらした印刷機の活字にも使われたそうです。活字には、通常鉛が使われていましたが、秘密(?)の方法で作られたBi合金も使われるようになりました。

Biは、ドイツ語のwismutのラテン語訳、bisemutumが語源といわれており日本では蒼鉛とも呼ばれることもあります。窒素族元素中、最も重い元素で、原子量208.9、融点は、271.4℃と金属の中では非常に低く、沸点が1564℃です。私達の普段の暮らしでほとんどBiという名前を聞きませんが、医薬品や特殊なはんだ、弾丸、セラミックスのうわ薬などの用途があります。 医薬品の例では、腸内の大腸菌によって作られる有毒な硫化水素が腸を激しく刺激して下痢などをおこすことがありますが、塩基性の次硝酸ビスマスが硫化水素と反応し硫化ビスマスとなってその作用を抑える働きを持っています。

現在は日本薬局方に記載されているBiの薬は次硝酸ビスマスだけですが、以前は次炭酸ビスマス、次没食子酸ビスマスなどが胃腸の保護剤、治療薬などとして使われていました。 また、狩猟などで使う散弾銃にもBiが使われています。最近鉛の弾による鉛障害の問題が鳥だけでなく、人間でも取りざたされています。そのため最近ではスズとBiの合金が出回っているようです。 Biは、ビスマイト(BiO2)、輝蒼鉛鉱(Bi2S3)などの鉱物として産出され、産地はメキシコやペルーなどといった所が多く、中国・北朝鮮にも大きな鉱脈があるのではと推測されています。また、1998年の純度99.99%のBiの市場での取引価格は1ポンド(約454g)あたり3.6ドルでした。価格的にはここ数年割合安定しているようです。



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