今を去ることX年前、免許を取ってはじめての冬のことでした。すでに何回か雪が降っていましたが、その事件の起こった日は道路に雪が全くありませんでした。気楽に車を走らせていた私は、「あれ、雪降ってないのに、何で道路が濡れているんだろう?」と気づきました。しかし、深く気にも留めず、下り坂の道を走っていたのです。そして、急な右カーブを曲がると、何とそのまま反対車線にまで飛び込んでしまいました。しかも、対向車線を結構な勢いで車が昇ってきます。「だーっ!」と大声をあげ、慌てて自分の車線に戻りましたが、今度はハンドルを切った以上に左側に曲がりすぎてしまい、ガードレールと見事な接吻。車はベコベコ…、ガードレールほとんど無傷…。 皆さんは、これが、カルシウム(Ca)と何の関係があるのかと思われるでしょう。実は、この時、私が滑ったのは、融雪剤=塩化カルシウムが溶けたものだったのです。

 塩化カルシウムは、雪が降っても積もらないようにするための薬「融雪剤」として使われています。塩化カルシウムは、水と反応し、0度以下になっても凍らないようになる性質、これを凝固点降下といいます、を持っています。 さて、Caですが、発見(単離)されたのは、1808年のことです。例によって、電解法を用いて、H.デービーが発見しています。ただし、化合物自体はかなり古くから使われており、炭酸カルシウムが大理石として芸術品や建築物等さまざまな形で利用されています。Caそのものの性質としては、アルカリ土類金属に属し、2価のイオンになりやすく、常温では、酸素や窒素と反応して酸化物や窒化物の皮膜を作ります。
 
 また、還元剤(反応する相手に電子を与える)として働き、バナジウム、チタン、ジルコニウムといった還元しにくい酸化物やハロゲン化物から金属をつくるに使われます。 また、身体の中では、Caはリン酸塩、炭酸塩という形をとりながら99%が骨に集まっており、残りは血液や筋肉の中にあり、生体を維持するために使われます。骨を丈夫にするためにCaは大事といいますが、他にもCaイオンのバランスが悪くなると、筋肉の緊張、情緒の不安定化、骨粗鬆症の原因になります。

(うちゅう1998年12月号より)


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