蛇口をひねれば、あたりまえのように出てくる水。汗をかく季節に冷やした水を飲むと、すごくおいしく感じます。また、プールに入って気持ちよく泳ぎたくもなります。しかし、時々、水がカルキ臭いと感じる事がありますね。特に、プールに行くと強いカルキ臭がします。飲料水は、湖や川の水をくみ上げ、必要な処理を施して上水道にのります。

その時に消毒剤として次亜塩素酸塩といった塩素を含む薬品を使っています。これは塩素の酸化力が強く、殺菌作用があるためです。さて、この水を消毒するのに使われる塩素は、1810年にイギリスのデービーが発見した黄緑色の気体です。塩素の英語名chlorineは、ギリシャ語のchloros(黄緑色)からきています。塩素は、単体で産出されることはなく、塩化物の形で天然に存在します。また、25度の水1リットルに対して約2リットル溶ける性質をもっています。単体の塩素ガスは、人類最初の化学兵器(毒ガス)として1915年、第1次世界大戦にドイツ軍が使用しました。また、最近、塩素を含む化合物で世間を騒がせているのは、ダイオキシンです。ダイオキシンは、人間が作ったもので最も毒性の高い物質といわれています。この名前を有名にしたのが、ベトナム戦争です。あの時使用された枯葉剤は、生成するときに、副生成物としてダイオキシンを発生させました。そして、その枯葉剤を使用した結果は、皆さんご存知の通りです。(注1)

このように書くと、塩素や塩素を含む化合物は非常に恐ろしいと思われるかもしれません。塩素は必要ないのではないか、とも思われるかもしれません。しかし、塩素がなければ、人間は生きていく事ができません。塩素を含む最も重要な化合物に塩化ナトリウム(塩)があります。塩がなければ、生命の維持は不可能です。また、体内で食物を消化する際に必要な胃液にHCl(塩酸)が含まれています。人間の体の中には、約100gの塩素が様々な形で存在するといわれています。また、命に直接関係はないですが、「ガラス」を作る原料に水酸化ナトリウムがあります。実は、水酸化ナトリウムの原料が塩化ナトリウムなのです。


(注1)現在のところ、ダイオキシンで確認されているのは、半致死量が10^−6g/kgで、発ガン物質ということだけである。人間に対する催奇形性などについて詳しいことは、わかっていない。

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