いきなりですが、キリストが最後の晩餐で使った聖杯、何でできていたかご存知でしょうか。うわさ(?)によるとこれは、エメラルドでできていたということです。そう、あの宝石で有名なエメラルドです。そして、エメラルドは綺麗な緑色をしていますが、この緑色を作る原因がごく少量含まれるクロム(Cr)なのです。

 Crは、その状態によって緑、黄、赤等さまざまな色に変化します。この元素は、1797年にフランスの化学者N.L.ヴォークランによって発見されています。彼は、シベリア赤鉛鉱と呼ばれるとても綺麗なオレンジ色の鉱石の成分分析を行いました。最初この鉱石は、過酸化鉛、鉄、アルミでできていると報告をしたのですが、他の学者が別の成分でできていると報告してきたため、ヴォークランは再実験をして決着をつけようとしたのです。そして、再実験の結果、最初に存在すると考えていた鉄等は含まず、新元素Crを含むことを発見しました。更に翌年には、Crを不純ながらも単離することにも成功しています。

 Crの名前の由来はギリシア語の「色」を意味するchromaにちなんでいます。 さて、Crの性質ですが単体は、表面に酸化皮膜ができるため、空気や水とは反応しません。化合物としては3価、6価が中心で、3価はほとんど毒性がありませんが、6価になると非常に毒性が高くなります。一時、6価クロム汚染で騒がれたことがありましたが、皆さんは聞いたことはないでしょうか。また、金属としての利用は加工が難しいこともあり、用途は合金やめっきを作る程度になります。

 合金となったCrはステンレスとして非常に多く使われています。ステンレスは鉄に12%以上のCrを含むものをいいます。ステンレスには大きく分けると2種類あり、鉄−クロムの合金と鉄−ニッケル−クロムの合金があります。ニッケルを含んだものは、耐食性、加工性などが非常に優れていますが高価なため、普通に使われるのは、鉄とクロムの比率が大体8:2の割合で作られたものです。 また、Crめっきは安くて綺麗な処理ができるため装飾品によく使われています。

(うちゅう1999年2月号より)


周期表トップへ