以前、友の会会員のOさんが、分光器を使って水素のスペクトルを見てみたい、とやってきたことがありました。その時、いろいろな元素のスペクトルを観察していかれました。さて、この分光器という機械を使って一番最初に発見されたのはCs(セシウム)という元素です。

 発見したのは、R.ブンゼンとG.キルヒホッフで、それは、1860年のことでした。ブンゼンは、化学の実験には欠かせないブンゼンバーナーを発明した人です。このバーナーはガスを完全燃焼させることができるので、2000℃近い高温で、無色の炎を作りだせるとても大切な実験道具です。ブンゼンは自分の発明したバーナーを使い、アルカリ金属などの炎色反応実験をはじめていました。ところが、2種類以上の元素が混ざってしまうと、どの金属の色か区別がつかなくなってしまいます。そこで、キルヒホッフがプリズムを使って成分光線に分けることをブンゼンに提案し、ここから分光器を使って、成分元素を見分ける方法が始まりました。

  彼らは、その分光器を使ってドイツのある鉱泉水中4万リットルに含まれるアルカリ金属を調べていました。そして、リチウムをほとんど取り除いた物を分析していたところ、それまで見たことのない2本の青色の輝線(455.5nm、459.3nm)を見つけました。2人はこの青色の輝線をもつ元素をラテン語の青を意味するcaesiusにちなんでセシウムと命名しました。単体は1882年にセッテルブルグがシアン化セシウムとシアン化バリウムの混合物から取り出しています。Csは、アルカリ金属中もっとも反応性に富み、水とは爆発的に反応するばかりか、氷とも反応します。そのため、不活性ガスを封入したアンプル中に保存します。

 私たちの生活では、直接お目にかかることのないCsですが、間接的に私たちに関わっています。時間の1秒はCsからでる振動数を基準にしています。そしてこのCsを利用した原子時計の誤差は、30万年に1秒といわれています。さて、来月は、ブンゼンとキルヒホッフがセシウムの次に分光器で発見したルビジウムに行きましょう。

(うちゅう1998年9月号より)


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