今を去る数年前、地球上のどこからでも携帯電話をかけられるイリジウムサービスというものがありました。テレビで、CMを流していたので、ご存知の方も多いかと思います。今でさえ携帯電話を持たない私は、秘境からも電話をしたいのか?と驚いたものです。さて、今回はそのサービスの名前に使われたイリジウム(Ir)についての話です。

 Irは、1803年イギリス人化学者S.テナントが発見しました。彼は、白金鉱を王水に溶かすと金属光沢を持つ黒い粉末が残るので、これを鉛と合金にしようと研究を続けました。すると、その粉末に2種類の未知の金属を含んでいるということに気づいたのです。もともとこの黒い粉末は、炭素ではないかと思われていたものでした。さて、このテナントが発見した新元素は、融点2,443℃、沸点4,550℃で密度が22.61g/cm3の素性をもっています。この密度は、全元素中一番重たいものになります。

イリジウムプラグ
  プラグ
 そして、空気中でも酸化されず、酸にも強く、金さえ溶かすという王水にも加熱しないと溶けません。また、硬い金属ですが、もろいため加工が難しくなっています。 そんな中でも、Irは、オスミウムや白金と合金を作り、万年筆のペン先に使われたり、航空機や車のエンジンの点火プラグとして使われます。ベトナム戦争中の米軍ヘリがこのIrプラグを用いたため、需要が急増したといいます。現在でも車の高性能プラグということで少し高めの値段で市販されています。ちなみにIrそのものの取引価格は、1単位(31.1g)当たり1998年で430ドルでした。値段の乱高下が激しく91年には283ドル、93年には47ドルなどとなっています。
 
 さて、イリジウムサービスとは、米企業の携帯衛星通信サービス「イリジウム計画」に沿って,77個の通信衛星を地球軌道に配置し、これらの衛星群で全地球領域の通信網をカバーするといったものでした。そして、その77という数字がイリジウムの原子番号だったためイリジウム計画と名づけられたそうです。Irと深いつながりがあったわけではないようです。

(うちゅう2001年11月号より)


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