今回のテーマちっ素(N)は、とても好きな元素です。何といってもサイエンスショーで数年に1回液体ちっ素を使った実験を行い、お客さんと一緒にとても盛り上がれますから。 私が初めて液体ちっ素を使ったのが、大学4年生で研究室に入った時でした。電子顕微鏡を冷やすのに液体ちっ素を使っていました。あっと言うまに蒸発したり、床の上を液滴が転がることが面白くて、隙を見ては、床にぶちまけて遊んでいたのは、私です。先生ごめんなさい。

  さてこのNは、空気中の78%をしめる無色無臭のガスです。基本的に毒性はなく、引火性もありません。原子量14、融点が−210℃、沸点が−195.8℃の無色無臭の気体です。発見者はイギリスのラザフォードが1772年に発見したとされることが多いのですが、同じような時期に、酸素を発見したシェーレや水素を発見したキャベンディッシュらもNを単離しています。
サイエンスショーの様子
    液体ちっ素を使った実験の様子

Nは、化学的に不活性な性質を持っており、空気中で反応させると欲しい化合物が作れない時などにNだけの状態を作り出して、その「ちっ素雰囲気」中で実験をすることもあります。また、サイエンスショーなどでも使う液体ちっ素は、冷却材としての用途で、血液や、精液などの生物試料の保管等に使われます。物騒なところでは、温度が低いと化学反応が止まったりするので、爆弾などの処理の際にも使われるようです。

 さて、Nが最も活躍しているところは私たちを取巻く、生物界全体です。「ちっ素サイクル」というNの循環系があります。これは、大気中のNをある種の菌が取り込み、有機物にします。また、緑色植物は硝酸やアンモニアなどの形のNを取り込み、やはりタンパク質やアミノ酸といった有機物を作ります。ここでできた有機物は動物などに取り込まれ、やがて動物達が死ぬとアンモニアやアミドといったNを含むものに分解されます。そして、ある種の細菌でNになるというものです。このNの循環の中で、細菌、植物、動物、そして人間が生きているのです。Nって本当にすばらしいですね。

(うちゅう2001年11月号より)


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