Osの話では、2001年のノーベル化学賞を受賞したバリー・シャープレス氏がOsを使った触媒でも大きな成果を挙げたことをお話させてもらいました。今回もそのノーベル賞に関係する物質です。昨年、野依良治氏もノーベル化学賞を同時に受賞しましたが、その研究の中でルテニウム(Ru)を使った触媒がありました。

 BINAP−遷移金属触媒分子を開発して不斉水素化反応を起こせるようにしたのです。このBINAP触媒につける遷移金属は、Ruやロジウムといったものが使われます。ちなみにBINAP−Ru錯体は、現在、不斉水素化触媒としては最も用いられている触媒です。この錯体を利用し、抗癌作用を持つ薬の合成や抗炎症剤などの医薬品を効率的に作れるようになったほか、抗菌剤の生産に使われるようになりました。 それでは、Ruそのものを見ていきましょう。

 

                                図.BINUP-Ru錯体

 原子量が101.07、融点2282℃、沸点4050℃になる銀白色の金属で、基本的には、酸には溶けません。他の原始などと結合するときに、電荷が+2〜+8まで変化することができ、+8という電荷はOsとともに最高の電荷数になります。また、Ruの同位体である103Ruと106Ruは大気圏内での核兵器実験を行ったときに必ず降下物として含まれるそうで、チェルノブイリの事故の際も放出されました。

 Ruは、1844年にロシアの化学者K.クラウスがウラル地方から取れた白金鉱石を研究して発見し、祖国ロシアのラテン名Rutheniaにちなんでルテニウムと名づけたそうです。しかし、クラウスがRuを発見する30年ほど前に、この元素を発見した人がいるのです。それは、ポーランドのシニアデーツキという化学者です。しかし、その発表を周りから無視されたり、追実験でもRuが出なかったりで、結局本人が、この発表を引っ込めたため、クラウスがRuの発見者になっています。 Ruは、化学工業では触媒としてなくてはならない元素になっていますが、身近なところの使用例というのは、前回同様万年筆のペン先を作る合金にしたり、Ptと合金を作って装飾品になるくらいでしょうか。

(うちゅう2002年3月号より)


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