ナポレオンがモスクワから撤退したのは1812年10月。その時、フランス軍兵士の軍服のボタンがボロボロとなって壊れてしまったという話があります。なぜ、こんな事が起こったのか。実は、この時使われていたボタンはスズ(Sn)でできており、低温に弱かったという事実があります。

 Snには2種類の状態があり、白色で金属光沢があるのがβ−Snといわれる白色スズ、さらにこれを −30℃以下に長時間保つとα−Snという灰色スズに変化するのです。この時も、白色Snから、表面が膨張し、劣化した灰色スズになり兵士のボタンが砕けてしまったのです。他にも、ロシアでは大寒波が襲った時に教会のパイプオルガンがスズでできているため、やはりボロボロになりました。この時はヨーロッパ各地のSnでできたメダル等も劣化してしまったため、Snの伝性病−スズペストといわれました。

 現在でも、パイプオルガンなどでは、Snで作っているので、ボロボロになってしまう可能性がないわけではないのですが、そうそう強い寒波がきて長居をする事もないので大丈夫だという話です。
 さて、このSnですが、あまりにも古くから使われていたため、発見者が誰かという事は特定できません。採掘先は、マレーシアをはじめとする東南アジアを中心に産出されまおり、日本でも10年ほど前まで鹿児島や宮崎、そして兵庫の明延で採掘されていました。しかし、円高、生産コストの問題等からすべて閉山されています。

 最も多い用途としては、めっきに使われます。Snは、鉄の表面にめっきされ、ブリキとなりますがこれは、鉄よりもSnが不活性なため侵食を防ぐ事ができるのです。生体に関する事では、クリーンルームでラットを育てた実験で、Snが欠乏すると成長が遅くなるという結果が出ていますが、人間に必要元素なのかどうかという事は分かっていません。なお、私たちは食物や水から1日に0.2〜17mgをSnを採取しているといわれています。そしてSnで問題になった多のは、トリブチルスズなどの有機スズです。これらは、フナクイムシなどの付着を防ぐために、船底や漁網に使われていたのですが、海水に溶け出し、天然魚やカキの養殖に問題を生じるため、現在は使用を自粛しています。


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