お茶しましょう」といわれたら、あなたは、何を飲みますか?
緑茶、コーヒー、紅茶、はたまたオレンジジュース…。状況にもよるでしょうが、私は、コーヒー、かな。今回は、コーヒーにまつわる化学のお話を。


日本人の発明 インスタントコーヒー
 私は職場で、よくコーヒーを飲むのですが、このときはインスタントコーヒーを飲んでいます。やはり、手軽に飲めるものがいいかなと。それでは、インスタントコーヒーは、いつ発明されたかご存知でしょうか。
コーヒーそのものは歴史が古く、エチオピアで医療や飲用として愛用されていたのが、10〜11世紀頃に中東に広がっていきます。それに比べると、レギュラーコーヒーは、製品化されたのが1906年となっています。19世紀末には、アメリカのG.ボードンという人物が、コーヒー抽出液を乾燥して粉末にしたという話がありますが、実用化にはいたりませんでした。最も製品化に近づいたのは、シカゴにいた加藤了という化学者です。

 彼は、1899年、やはりコーヒー抽出液をドラム乾燥法により粉末化することに成功しています。しかし、なぜか特許などをとらず、結局別のアメリカ人に特許を押さえられてしまいました。インスタントコーヒーを作ったというのが日本人というのは、結構意外ですね。


インスタントVS.レギュラー
 コーヒーで大事なのは香り、苦味、酸味などといわれています。インスタントコーヒーは手軽で飲みやすいのですが、どうしても、レギュラーコーヒーにはかなわない部分があります。それは、皆さんもお気づきのことかと思いますが、香りです。インスタントコーヒーでは、あの感動的な香りを特徴づける揮発性の芳香成分がレギュラーコーヒーより劇的に少ないのです。特に安いインスタントコーヒーほど製造時に香りが飛んでいます。

 これは製法の問題があるためです。高温でコーヒー抽出液を乾燥させる「スプレードライ法」という作り方では、香りの成分が熱によって分解されやすいのです。
ちなみにコーヒーに含まれる芳香族化合物は毎年同定数が増加しており、現在では、コーヒーには800種類以上の芳香族が見つかっています。

 次の表は、コーヒーの芳香において最も影響力のある化合物の一例です。例えば、表中の2-イソブチル-3-メソキシピラジンをはじめとするピラジン類は、脂肪族炭化水素についで、2番目に多いもので、クルミ、シリアル、クラッカーなどから香ります。また、コーヒーにパンを焼いたときの香りを感じるときに寄与する物質です。このようにピラジンは、コーヒー芳香に強い影響を持ちます。

表.コーヒーの中の芳香成分
名称 濃度(mg/l) 芳香記述
2-Furfurylthiol 1.08 roasty(コーヒー風)
2-Isobutyl-3-methoxypyrazine
(イソブチルメソオキシピラジン)
8.30x10-2 earthy(土っぽい)
Guaiacol(グアイアコール) 4.20 spicy(スパイシー)
Diacetyl(ジアセチル) 5.08 Buttery(バター風)
Vanillin(バニリン) 4.80 Vanilla(バニラ)


その他のコーヒーの化学
 コーヒー豆には、糖分が多く含まれており、重量の約30%が糖分です。それらがブドウ糖やショ糖の形で存在し、焙煎することによりメイラード反応を起こして、カラメルに変化し、コーヒーの色や香りを形作るようになります。メイラード反応の名前は知らなくても、砂糖を焦がしてカラメルを作るのもメイラード反応です。このときに香り成分もたくさん生成します。
 それから、最も有名なのはカフェインですが、これについては、以前本誌(2001年1月号)に詳しく書いたことがありますので、そちらを参照してください。
小野のホームページ(http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~ono/medicine/
no10.html)にも同じもの掲載しております。

おまけ
 ヨーロッパに行ったとき、聞いた話。ドイツでは、コーヒーをブラックで飲むやつは変態ですと言われました。多くの日本人がそうだとも。それから、イギリスのホテルのウェイトレスにも、砂糖もミルクもいらないと言ったらとても怪訝な顔をされました。嗜好品ですから、どんなふうに飲んでもいいと思うんですけどねぇ。


うちゅう2005年5月号より、一部改編(2007.11.11)