2004年ノーベル化学賞
2004年のノーベル化学賞は、また日本人が名前を連ねるのかなと予想していましたが、残念ながら受賞はなりませんでしたね。
さて、今年の受賞内容は、生化学〜医学に深くかかわる内容で、現在最もホットなこの研究分野のさきがけとなったものです。受賞者は、イスラエル工科大のアーロン・チェハノバ氏とアブラム・ヘルシュコ氏、カリフォルニア大アーバイン校のアーウィン・ローズ氏ら3名で、受賞タイトルは「ユビキチンの仲介によるタンパク質分解の仕組みの解明」です。

 ここでは、その受賞内容について簡単に取りまとめました。 ユビキチン ユビキチン…。聞きなれない言葉です。もしかしたらITで聞くユビキタスに関係する?などと気づく人もいるかもしれませんが、ほとんどの方が初めて聞く言葉でしょう。IT関係で最近使われるようになったユビキタスという言葉ですが、ユビキタス(ubiquitous)とは、もともとラテン語(ubique=あらゆるところで)を語源とした英語で、「どこでも」、「同時に至るところにある」という意味を持っています。

図1.ユビキチンの構造
ノーベル財団のHPより引用


 ユビキチン(図1)もそこから名前がつきました。酵母、植物、ほ乳類…、さまざまな生物の真核細胞にある、つまり至るところにあるタンパク質の名称で、76個のアミノ酸がつながってできています。 そしてこのユビキチンは、何らかのストレスで変異したタンパク質や、不要となったタンパク質に取り付き、プロテアソームというタンパク質分解酵素へ送り込む目印となるのです。 タンパク質の分解 タンパク質のユビキチン化は、一連の酵素群、ユビキチン活性化酵素(E1)が、ユビキチンと結合し、その後E1酵素が、ユビキチン結合酵素(E2)に取って代わります。そして最後にユビキチンリガーゼ(E3)が作用してくることで不要タンパク質にユビキチンが結合するのです。

 このときユビキチンはタンパク質に1つだけついているのではなく、複数個鎖状になって連なっています。このユビキチンがマーカーになり、タンパク質分解工場ともいわれるプロテアソームにより分解されます。ターゲットとなったタンパク質が分解された後は、ユビキチンは単体にもどり、再び、次の不要タンパク質をユビキチン化することに使われます。
 今回はこの仕組みの解明がノーベル化学賞となりましたが、内容的には生物学的な内容とも捉えることができ、実際この研究は、これまで生理医学賞の最有力候補として予想されていました。 人間は、体内で次々に新しいタンパク質を作りだしますが、そのうちのなんと30%は不良品になっています。これらは、上記の作用により速やかに分解されます。また、異常タンパクの蓄積によって、生じるBSE、アルツハイマー、パーキンソン病などは、この働きが何らかの原因でうまく働かないために起こると考えられています。今後、この分野の研究がさらに発展し、さまざまな病気の予防や治療に応用されることでしょう。

(うちゅう2004年12月号より)