大阪市立科学館研究報告10,101-106(2000)


大英科学博物館展実施報告

A Report of an Exhibition "The 200th Anniversary of Cell Birth" 

斎藤吉彦
  Yoshihiko Saito

大阪市立科学館
Osaka Science Museum

概要
第2次展示改装オープンに合わせて、平成11年10月7日から平成12年2月6日まで、英国のBoard of Trustees of Science Museum Londonより資料を無償で借り受け「電池200年」と題して、特別展を開催した。開催までの経緯と本展の内容を報告する。

An Exhibition "The 200th Anniversary of Cell Birth" had been opened at the same time of the second renewal open of exhibit rooms. All objects were borrowed from Board of Trustees of Science Museum London with without loan fee. We report details how it came about the open and contents of the exhibition.




1. はじめに
第2次改装で近代科学発展史をハンズ・オンと資料で綴ることとなった。それに合わせて、近代科学発祥の地、英国から関連資料を借り受けることを試み、Board of Trustees of Science Museum London(BTSM)からの無償借用が実現した。BSTMに打診してからオープンまで一年足らずの非常に短期間での作業期間であったが、「大英科学博物館展―電池200年―」を開催することができた。内容は電池の出現が科学史・産業史に与えたインパクトを表現することを試みたもので、5つのサブテーマ、「天体力学の時代」、「電池の発明」、「電磁気学のはじまり」、「通信」、「化学の発達」に資料を分類したものである。各サブテーマ毎に担当学芸員を決め、解説パネル等の考案を分担した。本編では、開催までの経緯、借用資料リスト、来館者の反応を記す。
2. 経緯
・ 資料の検索
BSTMは20万点を超える科学史資料を収蔵している。その中から有意義な資料を探し出すのは日本にいながらでは不可能である。その上、一年足らずという短期間である。そこで、BSTMのCuratorが資料の検索をしたり、図鑑などに紹介されているものなどを参考に借用希望を出すなどの作業から借用資料を確定した。
・ セキュリティ等
 当館のセキュリティ体制についての審査はUKRG Standard Facilities Reportの提出から始まった。これに合格した後も、更に詳しい調査が行われた。それは主にセキュリティシステムについてで、機械警備、漏水対策、火災対策、など詳細な質問が続き、オープン間近に契約成立となった。特に義務づけられたことを記す。
1.開館時は常に有人監視をすること。また、ビデオ監視システムを併設し、24時間記録すること。
2.ショーケースはBTSMが要求する仕様を満たすこと。
3.緊急時以外はBTSMの職員以外が資料に触れたりケースを開けることを禁じる。
4.BTSMの資料と他の資料とを同一ケースで展示することを禁じる。
5.BTSMの許可無しに、資料の写真撮影を禁じる。ただし、個人的な研究使用の場合は自由である。
・ 経費
必要経費で大きな部分を占めたのが、BTSM職員の旅費である。これは資料のインストールおよび撤収作業にそれぞれBTSM職員2名が必要だからである。BTSM職員以外は資料に触れることを固く禁じられているため、避けることができない経費であった。
・まとめ
無償貸与が実現するまでの手続きを以下に簡単にまとめた。 1.USFRを提出し資料貸し出しが可能かどうかの審査を受ける。
2.1と同時に館のハンズ・オン展示構想を示し、各展示に対応する貸し出し可能な資料リストと経費見積もりをBTSMが提示。
3. 経費オーバーのため、大型資料を除き小型資 料のみとし、さらに当館から小型資料の追加を要求し、予算内に落ち着くように再見積もりを行う。
4. 資料の削減を行い、再々見積もりを行う。

3.借用資料一覧
契約書に示された分類番号及び資料名と資料の写真を以下に一覧にする。


ニュートンの反射式望遠鏡

1924-209 Replica of Newton's first reflecting telescope made in 1668 and now in the possession of the Royal Society of London



彗星儀

1909-202 Cometarium, by W and S Jones



振り子機械

1965-82 Reconstruction of the first design for a pendulum and a clock escapement, proposed by Galileo before his death in 1642



オーラリ

1924-471 Small orrery by Troughton, London with armillary bands and octagonal base, showing three planets including the Earth and Moon with wooden case.



1930-728 Copy of Volta pile



重クロム酸電池 19世紀後半

1972-282 Bichromate cell


ルクランシェ電池 1887年

1957-248 Leclanche cell complete



ルクランシェ電池のカット

1957-249 Sectioned porous pot unit



エールステッドのコンパス

1931-706 Replica of Oersted's used for his original experiment on electromagnetism, 1820



ファラデーリング

1926-860 Replica of Faraday's induction coil, 1831



円盤発電機

1889-26 Electromagnet and rotating copper disc, with brush, for demonstrating induced currents



ヘルツの実験装置




直流検流計(レプリカ) 1878年
1929-289 Replica of original Hertz apparatus in Deutshes Museum:- tangent galvanometer, height 40cm



熱線検流計(レプリカ) 1883年
1929-303 Replica of original Hertz apparatus in Deutshes Museum:-hot-wire galvanometer in glass case



回転鏡装置(レプリカ)
1929-307 Replica of original Hertz apparatus in Deutshes Museum:- rotating mirror apparatus



コヒーラー

1923-396 Early Marconi cohererand admiralty pattern decoherer


ベルのオズホーン電話 1878年

1967-431 Early bell telephone and terminal panel, 1877/8, used at Osborne cottage, 14th January 1878



デーヴィーの安全灯 1815年

1857-208/1 Safety lamp, Davy, one of the first two to be used in a coal mine, 1815



デーヴィーの電解装置(レプリカ) 1807年

1932-165 Copy of glass object in Royal Institution Collection:- (no.84) Davy Electrolysis Trough(large dish)



ファラデーの電解装置(レプリカ)1832〜3年

1931-1198 Copy of glass object in Royal Institution Collection:- Faraday electrolsis globe



分光器

1980-530 Spectroscope on stand signed "Steinheil in Munchen", telescope is numbered 1402 and collimator is 1319. Prism and mounting are missing


ブンゼンバーナー 1860年代

1913-18 New Teclu burner
1922-207 Marshall's Bunsen burner



最初の合成染料

1947-333Mauve dyed shawl, about 2 yds square, exhibited at International Exhibition of 1862
1953-175 Mauveine dye in stoppered glass bottle labeled "Original Mauveine Prepared by Sir William Perkin in 1856" (Probably repackaged 1906)



ベークライト製ラジオ 1940年

1979-624/274 Valve radio of maroon phenolic and orange catalin, rectangular, made by the General Electric Company, USA, 1940's


3.来館者の反応
来館者の反応は良いものではなかった。対策として、展示に資料へ誘導するため、対応するハンズオン展示にラベルをつけたり、ケース前に使い古しの電池を大量に展示するなど、見学の動機付けを試みた。しかし、ラベルはハンズオン自身の存在感の強さのため、まったく効果がなかった。使い古しの電池はそれ自身には強い吸引力はあったものの、展示資料へ人を流す力とはならなかった。また、ケース内のグラフィック自身も効果的なものでなかった。予算がほとんどなく、常設展との併用でしのいだためである。さらに、契約上ケース内を触ることが禁じられていたので、ケース内に吸引力あるものを追加するなど、設置後の修正ができなかった。一方で、大英博物館展の近くに計算機と繊維・染料・プラスチックを扱ったコーナーは比較的見学されている。計算機は実際過去に使ったことのある来館者が懐かしさをもって見入っているようである。繊維・染料・プラスチックは色の美しさや身近な日用品などにひかれるとのことである。 以下に大英科学博物館展の不人気の原因で考えられることを列挙する。
1.馴染みのない資料には吸引力がない。
2. 小さな資料だけでは存在感が乏しい。
3. 科学史資料は来館者層にとって困難。
4.ケース展示にとってハンズオンは逆効果となっった。
5. ハンズオンと対応する資料の位置が離れすぎている。

謝辞
本展を打診した時から契約成立まで、さまざまな困難があった。これを打ち破り、貴重な資料を公開することができなのは、表に出ることのないJ.Goddard氏の熱意ある敏速な仕事によるところが非常に大きい。ここに謝意を表す。また、無償による貸与など特別な取り扱いを許可して頂いたBoard of Trustees of Science Museumに謝意を表する。また、渡辺一呂、高荒夏樹の両氏には当方の数々の無理難題を聞き入れて頂いた。ここに謝意を表す。

ACKNOWLEDGMENTS
  We wish to thank James Goddard for his many contributions to break through many problems on this work and to open the exhibition with the valuable objects and Board of Trustees of Science Museum for the agreements of the loan without fee. We wish to thank to Ichiro Watanabe and Natsuki Takaara for their encouragement for us.