大阪市立科学館研究報告 10,77-78(2000)



展示装置「磁力線を見よう」の開発について

斎藤吉彦
大阪市立科学館

概要
磁力線と電磁誘導とを同時に観察できる展示装置を開発し、現在、本館展示場で公開している。展示装置の概要と、来館者の反応を報告する。

1.はじめに

写真1.磁力線を見よう

第2次改装で近代科学の発達史を扱う「サイエンスタイムトンネル」というゾーンを設け、そこに「磁力線を見よう」というハンズオン展示を設置した(写真1)。磁力線と電磁誘導の2つの概念を見せるもので、ネオマックス、多数のコンパス、LEDが結線されたコイルからなる。 ファラデーが19世紀半ばに唱えた磁力線の概念は現代物理を語るのに避けられない場の概念に進化している。素粒子やフォノンは場で記述される。一般相対論も重力場の理論である。電磁波は電場・磁場を避けて語ることはできない。本館では、電磁誘導を説明するのに磁場の概念を避けて磁石の動きで説明していた。しかし、これでは電磁波をはじめ、さまざまな重要な概念を伝えることは出来ない。「磁力線を見よう」はこのことのブレークスルーを試みたものである。 本稿では、「磁力線を見よう」の仕様、開発、来館者の反応について述べる。
2. 仕様
 「磁力線をみよう」の主な仕様は以下の通り。
1. ネオマックスによる強力な磁場を使用する。
2. 磁場の様子をフェライト磁石を使用したコンパスで見る。
3. ネオマックスを回転させると、コイルに直結したLEDが光る。
4. 筐体・メカなど全てを木やステンレスなどとし、鉄製品など磁力線を吸い込むものは避ける。 5. 開発
サイエンスショー「磁石と電気」1で使用した磁力線観察装置が「磁力線を見よう」の試作器である。この試作器で、以下のことが確認された。
(1) ネオマックス(5×5×10cm)の磁場でコイル(23000T)に結線したLEDが容易に点灯する。
(2) 磁力線パターンが見えずらい。
(3) 磁力線パターンを見せる鉄針を吊るす針金がすぐ切れる。
(4) (3)の鉄針に埃が付着し動作不良となる。
展示装置とするには上記(1)を生かし、(2)〜(4)の改良が必要である。
 (2)に関しては、改良すべきことが2点あった。一つは磁力線の向きを表す鉄針を規則的に配置せず、ランダムに配置させなくてはならない。人は最初に鉄針が配置された格子パターンを強く認識してしまうので、磁力線パターンを認識するのは困難なのである。これは簡単なパソコンでのシミュレーションで確認することができた。2もう一つは鉄針の密度を大きくすることである。(3)(4)に関しては市販のコンパス(自動車のアクセサリー)で代用可能である。コンパス同士の干渉が懸念さるが、ネオマックスの磁力が強いのでそれは無視できる。さらに、このコンパスを多数使用すれば(2)の改良すべき2点もクリアできる。
以上、試作器の問題点の回避方法を明らかにし、「磁力線を見よう」の設計を行った。
4. 来館者の反応
 「磁力線を見よう」は現在展示場で稼働中である。動作はほぼ著者のねらいどおりで、メンテナンス性も非常によい。若干、照明などの映り込みがあるが、十分観察可能である。コンパスの矢印を蛍光塗料で塗ってあるので、照明を落としブラックライトで照すことで、、映り込みが消え磁力線のパターンを非常に美しく浮かび上がらせることも可能である。
 来館者に与えるインパクトは非常に大きい。しかし、コンパスの奇異な動きに喜ぶだけで、磁力線や起電力の観察ができない来館者が多い。グラフィックスや他の展示との相互作用など、環境の改善が必要と考える。
5.まとめ
 若干積み残しの課題はあるものの、「磁力線を見よう」はほぼ完成した。場の概念をこの装置で語ることができるので、新しいプログラムを考案したい。また、他館でも本装置が導入されることを期待している。

謝辞
ネオマックスの提供やコンパスの入手に便宜をはかって頂いた(株)住友特殊金属に謝意を表する。また、適切な助言を頂いた長谷川覚氏および藤井博満氏に謝意を表する。長谷川能三氏にはシミュレーションによって、試作器の欠点を明らかにするなど、多くのことで有意義な助言をいただいた。ここに謝意を表する。

参考
1.斎藤吉彦:大阪市立科学館研究報告誌9,95-97(1999)
2.長谷川能三氏のパソコンによるシミュレーション