19:50 03/03/06記 15:15 03/03/08改
「ローレンツ収縮と相対論的力学」(パリティ,Vol.18 No.03 2003-03)について  

  パリティの今月号に、標題のものが掲載された。これは、科学館談話室で話題となったロケットの間隔の以下の問題設定と同質のことを論じている。

『S系(静止系)で,まったく同性能のロケット(多数)が,x軸上に等間隔Lでならんで静止している.

 …■………■………■………■………■………■………■………■……→x

 (S系での)時刻0に各ロケットが同時にロケットに点火しx方向へ加速を始めた.ロケットは(S系での)時刻t1に噴射をやめ,以後,速度vで飛行した.
 その後,ロケット間の間隔は,
【問1】S系ではどうなっているか.
【問2】ロケットの系ではどうなっているか.             』

この問題の答えはロケットの間隔にあるので、ご覧頂きたい。

さて、「ローレンツ収縮と相対論的力学」は冒頭から私にとっては意味不明の記述がされているので、それ以降は読んでいない。この論説に対する反論が同じ号に掲載されているので、詳説はそれに任せるとして、ここでは、冒頭が意味不明であることを解説したいとおもう。(初学者の勉強を妨げる惧れがあるので)

意味不明の記述
「ローレンツ変換の本質は「時空のスケール変換」であることを明らかにした。これは相対速度が等速になっている座標系間の関係であるが、ある慣性系から出発してこれを実現するためには、加速系への変換を行う必要がある。座標系Sに対して速さv=βcで運動している座標系S'を実現するために、系S’を加速するのだが、このとき何が起きるかはロケットなど現実の物体の加速運動を考察する事で明らかになる。」

特殊相対性理論の言葉になっていないので、私には理解できない。ローレンツ変換とは2つの慣性系を関係付けるもので、光速度不変の原理から演繹されるものである。また、特殊相対論では、慣性系は議論の土台として最初に与えられ、そして、慣性系で相対性原理と光速度不変の原理が与えられる。ある慣性系を加速して他の慣性系を実現するものではないし、「座標系を加速する」、「座標系を実現する」は意味不明である。慣性系は議論の土台として、既に与えられているのである。【問1】【問2】を解くには加速系など定義する必要はない。さらに、この論説は一般相対論などを持ち出して議論していて、初学者には、厳密な議論のような印象を与える。しかし、この手の問題を解くのに一般相対論は必要ないことを強調しておく。

慣性系、座標系、座標変換などの概念の解説を以下に試みる。 これを読んで、改めて上記に引用した文章を読んでいただきたい。意味不明であることが理解頂けるかもしれない。直感的なものは以前、月刊うちゅうに書いたので、これも参考にしていただければと思う。

慣性系は次のように定義される
中野董夫著「相対性理論」岩波18ページ
運動を記述するには、例えば地面に固定した座標系のように基準になる座標系(基準系)を考えると便利である。第一法則は、ある座標系から見て力を受けない物体が等速運動をすることを意味する。これは逆に、力を受けない物体の運動が等速直線運動として見えるような基準系を選ぶことができることを示している。第一法則が成り立つ基準系を慣性系という。

つまり、慣性系は座標系の一種なのだ。ローレンツ変換は座標変換の一種であって、2つの慣性系を関係付ける公式なのである。

座標系、座標変換の例として、マゼランの地球一周を考えよう。世界地図にはいろんな図法があり、局付近が広がったものや、それを補正したものなど様々である。とにかく一つ世界地図を選ぼう。この世界地図にマゼランの地球一周の軌跡を描こう。次にこの世界地図に(x,y)座標を与えよう。そうすれば、マゼランの軌跡は(x(t),y(t))と時間の関数として表す事が出きるのだ。この(x,y)を座標系という。よく考えると今の場合、座標系(x,y)は地球表面からRへの写像なのだ。例えばxとして緯度、yとして傾度を採用すれば

x(大阪)=34.5、y(大阪)=135.5

なのだ。これが座標系の概念である。特殊相対論でいう慣性系は、ミンコフスキー時空からR4への写像なのだ。

 ここまでくれば、座標変換は簡単で、読むが字の如しである。世界地図Aから定義した座標系を(xa,ya)、世界地図Bから定義した座標系を(xb,yb)としよう。すると、xa,yaは、それぞれ、xbとybで書くことが出きる。すなわち、関数f、gが存在して、

xa=f(xb,yb)、ya=g(xb,yb)

と表すことができる。これを座標変換と言う。ローレンツ変換もこのようなものである。

以上を数学的に厳密に書くと

座標系は

(xa,ya):p∈地球表面→(xa(p),ya(p))∈R
(xb,yb):p∈地球表面→(xb(p),yb(p))∈R

座標変換は(xb,yb)の逆写像と(xa,ya)との合成写像である。

(xa,ya)・(xb,yb)-1:R→R

地球表面とミンコフスキー空間との対応は次のようになる


地球表面とミンコフスキー時空
物理現象が起こる空間 地球表面 ミンコフスキー時空
物理現象 マゼランの世界一周 ロケットの世界線
座標系 地図にxy座標を入れる ある慣性系を決める