大阪市立科学館研究報告14,159-162(2004)

サイエンスショー「ロケットのひみつ」実施報告

斎藤吉彦

大阪市立科学館

 

概要

ロケットが加速する原理を体感し、作用反作用の法則を知ることを目標として、2003年6〜8月にサイエンスショー「ロケットのひみつ」を実施した。

1.はじめに

ロケットは子どもから大人にまで非常に人気がある。そして、ロケットの原理を示す演示実験が多数ある。そこで、ロケットが加速する原理を体感し、作用反作用の法則を知ることを今回のサイエンスショーの目標とし、サイエンスショー「ロケットのひみつ」を考案・実施した。本稿では、2章で演示内容を、3章で各演示実験のノウハウを、4章でサイエンスショーを実施した感想などを述べる。

2.演示内容

(1)導入
燃焼ガス噴射の反作用でロケットが加速することを知る。

(1−1)フィルムケースロケット
フィルムケースロケットがステンレス製洗面器に衝突する音で驚かせる。


図1.フィルムケースに水と入浴剤を入れる。

図2. 発生する炭酸ガスで圧力が大きくなり、ふたが外れた瞬間。フィルムケースが高速で飛び上がっている。

(1−2)基礎概念導入
宙吊りにしたフィルムケースロケットやカエルのおもちゃを使い、フィルムケースロケットは水を噴射することで加速することを知る。ロケットは燃焼ガスの噴射で加速することを説明する。


図3.フィルムケースロケットを宙吊りにした場合。

図4.ふたが外れた瞬間

図5.かえるのおもちゃで考察

(2)反作用の例示
ガスの噴出による反作用を例示する。
(2−1)ロケット風船
フィルムケースロケットの考察からロケット風船がなぜ飛ぶかを考える。


図6ロケット風船

(2−2)ブロワー列車1
ロケット風船から、さらに現象を大きくし、原理を納得させる。


図7.ブロワー2台を固定し、ひざの上におけるようにしたもの

図8.ブロワー2台から吹き出る空気の反作用で、レール上を人を乗せた台車が加速する。

(3)ロケット燃料と爆風
 爆発により、ガスが噴出することを知る。
(3−1)液体燃料
 ロケットの液体燃料と同じ物質、水素・酸素混合ガスの爆発2で爆風が得られることを確認する。大きな爆発音を効果音として、爆発でガスが噴射することを見せる。


図9.水素・酸素混合ガスをチューブに入れ、電子ライターの火花で着火する。

図10.大きな爆発音と同時に爆風でロートに入れた紙片が舞い上がり、紙ふぶきができる瞬間。

(4)ロケット実験
 爆風によりロケットが飛ぶこと
を知る。

(4−1)マッチ棒ロケット3 
 固体燃料の説明と、固体燃料の例示。小さなマッチ棒が予想以上に高速で飛びあがる様で興味を持たせ、原理を納得させる。


図11.マッチ棒の先をアルミ箔で包み、針で燃焼ガスの噴出口を開け、発射台にセットする。

図12.燃焼ガスを噴き出しながらマッチ棒が飛び上がる瞬間

図13.噴出した燃焼ガスがマッチ棒の飛んだ跡を描く。

(4−2)最初のロケット3
 固体ロケットの実践例として、漢民族の火矢や、最初の有人ロケットの逸話を模型やイラストを見せて説明する。


図14.模型で中国の逸話を紹介

(4−3)アルミ缶ロケット4
 爆風が出るもののほとんど動かない。見学者の期待を裏切り、次の実験の効果を高めるため、あえて動きの小さな現象を見せる。
 発射台の単純さに反して想像以上に大きな現象で、見学者は驚く。事前の小さな現象が見学者の反応を大きくする。ステンレスの洗面器に衝突する音響が効果を高める。
 ただし、シリンダーを使っているので、解説に工夫が必要。著者は、「爆風が床に当たり、床から跳ね返り、空き缶を押し、また跳ね返り、・・・、爆風の再利用」と説明した。


図15.アルミ缶に可燃ガスを入れ着火。爆発するがほとんど飛ばない。

図16.コピー用紙で作ったシリンダーにアルミ缶を入れ、再度実験。

図17.アルミ缶が飛び上がる瞬間。アルミ缶は上部のステンレスの洗面器にぶつかり、大きな音を出す。

(4−4)ウイスキーロケット5
 身近なものとして、ウィスキーを燃料とする。ウィスキーが爆発する原理を説明し、「ウィスキーが爆発する?」という半信半疑のストレスを見学者に与えておく。その後、見学者の頭上を飛ばす。ペットボトル内が燃焼により光ること、爆風がペットボトルから吹き出る音、ペットボトルの飛ぶ速さ、など想像を超える現象で、感嘆の声があがる。


図18.ペットボトルにウイスキーを入れる。

図19.熱湯で温め、アルコールを蒸発させる。

図20.ペット内でアルコールが爆破した瞬間。この跡、ペットボトルはタコ糸に沿って見学者の頭上を飛ぶ。

(5)まとめ
 ロケットが飛ぶ原理を一般化したものとして、作用反作用の法則を納得させ、ニュートンを紹介する。




3.ノウハウ

1.   フィルムケースロケット

@     フィルムケースに入れる水の量は、フィルムケースの半分位がよいと思われる。水量が多くても少なくても、勢いよく飛ばない。

A      効果音を出すため、ステンレスの洗面器にフィルムケースを衝突させた。

2.   水素・酸素混合ガスの爆発

@     水の電気分解により水素ガスと酸素ガスを発生させた。水道水を使うと、しばらくすると電極に汚物が付着し、ガスの発生量が減少する。純粋の使用を薦める。

A     酸素ガスと水素ガスを蓄えるチューブを鉛直に保つと、着火しないことがある。水素ガスと酸素ガスが分離するのかもしれない。水の電気分解で混合ガスを作るより、ボンベから直接得る方がよいかもしれない。

3.   マッチ棒ロケット

@     マッチ棒の先をアルミ箔で包むとき、燃焼ガスで破裂しないように、強固に巻く。

A      噴出口は数箇所つくるとよい。一箇所の場合、その噴出口から燃焼ガスが噴出せず、アルミ箔が破れ、飛ばない場合が多い。

4.   アルミ缶ロケット

@     アルミ缶の則部に着火用の穴(直径5mmぐらい)をあける。

A     シリンダーはコピー用紙など柔らかい紙がよい。また、アルミ缶との隙間をコピー用紙1枚分ぐらい持たせるとよい。

5.   ウィスキーロケット

@     ペットボトルは耐熱耐圧用のものを用いる。耐熱でない場合は熱湯でつぶれる。

A     ペットボトル(1.5リットル)にウィスキー5ccを入れ、熱湯の入った電気ポットに10秒浸けて温め、外で30秒冷やすと、爆発するのによい条件のようである。温めて、すぐに着火しようとしても着火しないことが多い。

B     ペットボトルのふたに、噴出口兼着火用の穴を開ける。直径5mm以上。穴が小さいと、破裂する、ふたが飛ぶなど危険。

C      噴出するガスは高温で危険。

D      タコ糸に沿って飛ばすために、ストローをペットボトルにセロテープで貼り付け、これにタコ糸を通す。

 

4.まとめ

迫力ある実験の連続で好評であった。演示と解説を工夫することで、推論・検証という思考を促すことも可能である。楽しい時間を過ごしながら、自然と作用反作用の概念を与えることはある程度できたと思う。ただし、中国の逸話など歴史的な話題は見学者が次の現象を期待しているためであろう、興味を示さないこともしばしばあった。

多くの見学者は科学的思考なしでも現象を見るだけで満足する。思考を嫌う傾向すらある。しかし、科学的思考で満足していただくことを常に心がけたいものである。

一方で、次のような批判をいただいた。6

1.ロケットが飛んでいる時間のほとんどが慣性運動である。慣性運動と加速運動の違いを紹介するべきである。

2.ロケットの先端技術を紹介するべきである。

批判をいただいて、実際に言及することも試みた。20分間の演示という制約があるため、提示する概念を増やした分、内容が薄くなるのは避けられなかった。もし、これらについても言及することができたら理想かもしれない。知識を羅列するだけなら提示する概念を増やすことは可能である。しかし、科学的思考を楽しむためには、作用反作用の法則を目標とするのが適切であったと思う。

ところで、表1に示したように、失敗することも時々生じた。演示者によっては、これらの一部を割愛する場合があった。

表1.失敗内容と原因

水素・酸素混合ガスの爆発

着火しないことがある。原因不明

マッチ棒ロケット

薬剤を包んだアルミ箔が燃焼ガスによる高圧で破裂し、飛ばない。

ウィスキーロケット

着火しないことや、燃焼が迫力にかけことがある。熱湯で温めた直後は、アルコール圧が高すぎて、酸素不足と思われる。

謝辞

同僚の皆様には、有意義な助言を多くいただいた。また、サイエンスショー研究会に参加いただいたみなさまからも貴重な意見を頂いた。ここに謝意を表します。また、(有)彩美術工房の松井俊二氏には最初の有人ロケット模型、()アクセスの早野治朗氏にはブロワー列車の製作に協力いただいた。ここに謝意を表します。

 

脚注

[1] 愛知・岐阜・三重物理サークル:いきいき物理わくわく実験2,日本評論社

[2] 小野昌弘:大阪市立科学館研究報告, No8,77

[3] http://www.grc.nasa.gov/WWW/K-12/aeroact.htm

[4] 小野昌弘他:大阪市立科学館研究報告,No3,75

[5] 小野昌弘:大阪市立科学館研究報告,No4,103

[6] 11回サイエンスショー研究会