サイエンスショー「磁石のひみつ」実施報告

斎藤吉彦

大阪市立科学館

 

概要

2002年3〜5月のサイエンスショー「磁石のひみつ」は強磁性体のミクロ構造、分子磁石の概念を伝えることを目標として実施した。

 


1.はじめに

学校教育では鉄−磁石間の相互作用は鉄の属性として教えられる。そのため、大学で物理学を学ばなければ、「なぜ鉄が磁石につくのか?」を知らないことがほとんどである。

そこで、磁石を粉砕した集合体を強磁性体に例えることで、分子磁石の紹介を試みた。ただし、磁区や磁壁の移動については、触れることはなかった。また、ショーアップを図るためネオジム磁石の強力な磁力で迫力ある現象(1998年サイエンスショー「磁石と電気」[1]で使用)を見せながら演示した。

 

2.演示

(1)導入

 

磁石の概念を十分内生させ、本題の準備をする。

(1−1)天然磁石

20cm大の天然磁石を見せ、磁石の歴史などを概説する。

(1−2)ネオジム磁石であそぶ

1cm大のネオジム磁石2つで耳を挟み、ドライバーなどをつけて遊ぶ。(イアリング)

 

 

 

(1−3)超強力磁石[1]で磁石の性質を復習

磁石につくもの、つかないもの、を超強力磁石の迫力の下に 復習する。

また、2本の棒磁石で、磁石の異極間には引力、

 

 

同極間には斥力が働くことを観察する。

 

 

 

(2)分子磁石

 

磁石の粉体の着磁・消磁と鉄の着磁・消磁との対比から、分子磁石を納得させる。

(2−1)フェライト磁石の磁力を確認

フェライト磁石はクリップを多数くっつけることを確認する。

(2−2)フェライト磁石の粉砕

フェライト磁石を金槌で粉砕し、ホワイトボードなどにくっつけて、一粒一粒は磁石であることを確認する。

(2−3)粉砕後の磁力

砕いた磁石が集合体になるとクリップを付けないことで、磁力が消えることを確認する。

(2−4)磁石粉体がうに状に

砕いた磁石をおにぎり大にして、超強力磁石の上へ持っていくと、

うにのようになることを見せる。何が起こったのか、疑問を喚起させる。

 

(2−5)磁石粉体の着磁・消磁実験

ペットボトルに入れた砕いた磁石が

.リップをくっつけない、

超強力磁石にくっつく、

 

 

 

 

 

       D橋力磁石にくっついた後はクリップをくっつける、

 

 

 

 

ペットボトルを激しく揺すって磁極の揃った中の磁石粒をバラバラにすると、クリップをくっつけない。

 

 

 

(2−6)磁石の向きが揃うと磁力が強くなる。

 

(2−5)の現象を考察するために、棒磁石4本すべて向きを揃えたときと

 

2本づつ揃えてそれぞれを逆向きにしたときの磁力を、引き寄せるクリップの量で比較。

また、イラストを使って、思考させながら解説する。

 

 

 

 

(2−7)鉄の着磁実験 

金槌を着磁することで分子磁石導入の準備をする。

金槌はクリップをくっつけない。

 

 

 

 

 

超強力磁石にくっつく。

 

 

 

 

 

 

超強力磁石にくっついた後はクリップをくっつける。

 

 

 

 

(2−8)分子磁石の概念を与える。

磁石分体と金槌との着磁実験の比較から、分子磁石を類推させる。

(2−9)鉄の消磁実験

 

ボルトで再度着磁を確認後、磁石粉体の消磁方法を喚起させながら、消磁する方法を見学者に問う。

そして、金床にボルトを何度もたたきつけることで消磁する。このとき、向きの揃った分子磁石がばらばらになる様子を想像させる。[2]

(2−10)方位磁石集団で分子磁石の動きを類推

 

カーアクセサリー用の方位磁石をトレイに多数並べたもの[3]を鉄の内部構造に例えて解説。磁石を近づけると磁石の極性に応じて方位磁石の向きが揃う。遠ざけると方位磁石が近傍が揃いながら、全体としてばらばらの方向を向く。このことから、‥瓦亙子磁石でできていて、⊆Ю个近づくと、分子磁石の向きが揃えられ、磁化することでその結果、磁石に引き寄せられるという描像を与える。

(2−11)分子磁石の動きをイメージする。

 

クリップ多数を超強力磁石に近づけたり、遠ざけたりして、クリップの様子をみながら、クリップ内部の分子磁石の動きを想像させる。

(2−12)学習の確認

 

最後に、「鉄はなにからできているのでしょうか?」と見学者に問い、「磁石からできている。」との応えを求める。

 

3.関連展示

 関連展示として、次の展示をサイエンスショーコーナの近辺に設置した。

ーЮ侏用の今昔

天然磁石、漢代指南、19世紀の馬蹄形磁石から、現代さまざまなところで使用されている永久磁石などをケース内に展示

⊆Ю个離董璽屮[2]

カーアクセサリー用の方位磁石を1000個並べたもので、磁区が観察できるもの

 

磁石と磁石[3]

格子状に仕切られた各スペースに小磁石が入っている。この各小磁石が外で動かす磁石と反応し、蚤のような動きをする参加型展示。

 

4.まとめ

超強力磁石の迫力と意外な現象の連続で好評であった。

       導入部

磁石と磁石との相互作用、磁石と鉄との相互作用は、誰でもが知っている基本的な現象であるが、退屈させることなく確認することができ、本題の準備ができた。

       分子磁石

 分子磁石の概念は小学校5年以上にはある程度伝えることができたが、小学校4年生以下は困難であったと思われる。構成子の概念を用いることは、小学校4年生以下では不可能なのかもしれない。

 磁区

 常磁性体も分子磁石でできている。強磁性体との違いは、常磁性体は分子磁石の向きが、隣同士で逆向きに揃うのに対し、強磁性体は隣同士が同じ向きに揃うのである。このため、強磁性体では分子磁石の向きが揃った領域、磁区が形成される。強磁性体の磁化の本質は磁壁の移動である。ところが、今回のサイエンスショーでは、強磁性体が磁石に引き寄せられる理由を「鉄は磁石でできているから」と説明した。磁区の概念まで説明し、常磁性体との違いを述べるのが理想であるが、理解の混乱を避けるため、磁区に触れることは避けた。

その一方で、磁区の理解は「磁石のテーブル」の利用で可能かもしれない。実際、大人に何度か説明を試みたところ、理解を示すのである。一方、子どもには困難である。磁区まで言及することは今後の課題である。

       関連展示

サイエンスショーコーナの側に関連展示を3点設置した。「磁石のテーブル」はサイエンスショー終了後に見学者がこの装置を取り囲んでいた。分子磁石の記憶を強めたものと思われる。「磁石利用の今昔」は設置場所がよくない、「磁石と磁石」は吸引力・保持力が小さい、という理由から、利用されることは少なかった。しかし、利用された場合はサイエンスショーの準備や、体験を強化する役割がある。単品よりも複数のほうが効果が大きいことも明らかである。物理的条件や展示固有の条件など制約が厳しいが、今後もなんらかの関連展示を続けたいものである。 



[1] MRIに使用されているもの。住友特殊金属()寄贈。

[2] (2−7)で金槌を、(2−9)でボルトを、と異なったもので演じたのは次の理由による。

金槌は着磁の効果が大きいが、ボルトは見劣りする。一方、金槌は金床にたたきつけても消磁しないため。

[3] 展示装置「磁石のテーブル」のスケールを小さくしたもの。



謝辞

本サイエンスショーに使用する大量のフェライト磁石の入手に関して、(株)エス・ジー・エスの渋谷勝氏にはご尽力いただいた。ここに謝意を表する。

 

参考文献

[1]斎藤吉彦:大阪市立科学館研究報告 No9,1999,95-98

[2] 大阪市立科学館研究報告 No12,2002,57-62

[3] 本編「磁石に関する展示コーナ開発について」