第2次展示改装報告(1)

―オープンまでー

斎藤吉彦

大阪市立科学館

 

概要

 

 開館10周年を記念し平成11107日、近代科学発展史を扱った展示場と電気エネルギーを体感する展示場を一般公開した。改装費用は5億円である。近代科学発展史のコーナーは「偉大な科学者の発見を追体験」をテーマに静的資料展示とハンズオン展示とがお互いが補完しあうことを試みたものであり、電気エネルギーのコーナーは身体一杯動かし発電を体感することを試みたものである。この業務の準備から一般公開までを記す。

 


1.はじめに

当館は平成元年10月に市政100周年を記念し、関西電力(株)の寄付により開館した。展示更新に関しては次のような計画がたてられた。。鞠毎に1/3ずつ更新し15年で総入れ替えする、∩躔佝颪漏館時の展示場経費と同額15億円とする。第一次改装は1994年に、予算5億円で完了した(内2.5億円分は関西電力(株)からの現物寄付)。

第2次改装のテーマを「偉大な科学者の発見を追体験」とし、静的資料展示とハンズオン展示との併設で、お互いが補完しあうということを期して設計・施工を行った。また、電気エネルギーのコーナーは発電を体感することがコンセプトとである。改装費用は5億円で、関西電力(株)の協力を得た。本編ではこの第2次改装業務のオープンまでを述べる。

2.第2次改装業務主な履歴

平成9年

1月:展示委員会の準備始まる、コンセプトの議論始まる

4月:展示委員会発足

10月:展示委員会、2次改装に関する提言を提出

11月:新展示の基本案作成作業が始まる

平成10年

2月:新展示の基本案提出

5月:設計業者ムラヤマに決定

9月:基本計画ver.2

12月:基本設計図完成

平成11年

3月:実施設計図完成

9月:館内工事始まる

106日:プレオープン

3.平成9年度業務内容 

  展示構想・展示委員会

 当初、平成9年度は基本設計、平成10年度は実施設計、平成11年度は改装工事と3ヶ年計画を想定していたが、諸事情により基本設計・実施設計はオープン前年度の平成10年度事業となった。したがって、平成9年度は展示業者に委託することができず、ほとんどが展示改装の概念形成に終った。5名からなるプロジェクトチーム(館長、学芸課長、主任学芸員、及び2名の学芸員)で企画し、学芸課で作業を遂行した。主な内容は学芸課の企画を展示委員会で審議するという形式である。10月に展示委員会から提言をいただき、展示改装の基本構想がほぼ確定した。その後、平成10年6月まではデザイナー不在の状態で展示物具体化の作業を進めることとなった。

展示委員会概要

(会合2回)

聞き取り調査(1回)

調査研究(1回)

提言(骨子:インストラクタの必要性、科学史を取り入れた展開)の提出(付録)

展示委員名簿

後藤邦夫(桃山学院大学教授・西欧科学史)

小森田精子(大阪大学助教授・化学)

小山武良(大阪市立日本橋中学校校長・学校教育)

佐藤文隆(京都大学教授・宇宙論)

住田健二(原子力安全委員・原子核工学)

辻本正幸(大阪市立酉島小学校校長・学校教育)

中野董夫(前館長・素粒子論)

原武久(関西大学教授・電気工学)

三宅宏司(武庫川女子大学教授・日本技術史)

山田善春(大阪市立工芸高校・物理教育)

展示構想立案業務

1階をリファレンスコーナー、サイエンスショーコーナーに、1階既存展示を3階に移設、4階は科学史を展開、という構想からはじまり、諸条件による制約、展示委員会での審議、等を考慮することで、学芸課による基本構想案が作成された。そして、それが展示委員会の提言として展示改装基本構想にまとまった(付録1)。これをもとに展示品の具体化(イラスト化、仕様の詳細)を行い、2月に新展示の基本案を作成した。次年度5月に設計業者が決まるまで、展示場の制約、仕様の実現性などから展示品案の検討を行った。なお、全体構成を検討する中で、1次改装で導入された「エネルギー」のコーナーも改装することとなり、オープンまで、関西電力(株)地域共生本部より様々な助言を頂いた。

2月から翌年6月まで予算がないため、設計業者・デザイナーが不在で業務が停滞することとなった。その期間、ほとんどが机上の議論となった。しかし、予算がなくとも、来館者の反応を検討するなどの可能な調査は少なくなかった。しかし、そのような調査活動は個人レベルでのみ行われ、組織的な動きがなかった。今後、展示品立案から制作までの系統的・組織的な調査研究活動をいかに実現するかが大きな課題であろう。

4.平成10年度業務 

  調査・基本設計・実施設計

 コンペ方式により参加業者6社の中から(株)ムラヤマを設計業者として採用した。方法は展示改装の基本構想を示し、そこから指定された数点の展示品に関する提案を求めるものである。

・基本設計・実施設計

この年度は5千万円の予算で基本設計・実施設計、他館調査および資料収集を行った。施工業者は入札で決めることを前提に、展示品の具体化をすすめ、予算、展示場面積、実現性などから展示品候補の採用・不採用を決め、基本設計・実施設計を行った。

総経費5億円の事業を基本設計・実施設計を10ヶ月間で仕上げるという非常に時間的制約の厳しいものであったため、デザイナーと学芸員との綿密な打ち合わせが困難となった。そして、裏付けの乏しい安直な仕様変更も少なくなかった。そのため、双方に不満の残る部分があったことは否めない。時間的制約が非常に厳しかったことが大きな要因であるが、基本設計以前及びその途上での調査研究が不足していたことも一因である。

・海外博物館の協力

海外科学館・博物館にも協力を求めた。そして、平成11年度に英国のThe National Museum of Science & Industryには資料の無償貸与、写真の有償借用および骨董品店の紹介、英国のBritish Museumにはレプリカの制作、仏国のCite des Sciences et de I’Industrieには展示アイデアの有償借用、米国のExploratoriumには展示物制作委託、という協力を得た。特にThe National Museum of Science & Industryの資料の無償貸与により、オープン時に「大英科学博物館展―電池200年―」を開催することができた

調査

国内外の同種施設の調査を行った。国内については展示業者、海外については展示業者2名、学芸員1名で行った。時間的制約と委託事業であるため、ほとんどが業者による調査となった。内容はほとんどが展示の仕様であり、来館者反応などはなされなかった。提出されたレポートは館に残るが、学芸員のレベルアップにはほとんどつながらず、ひいては館の実質的な財産にはなっていない。学芸員が直接調査できる体制が課題である。

5.平成11年度業務内容

施工業務は随意契約で設計業者と同じ(株)ムラヤマに委託することとなった。オープン日は開館10周年を記念し107日である。この年度も6ヶ月という短期間で施工図の作成・施工、グラフィックスの作成、展示資料の収集、海外博物館との契約などを行うこととなった。

・資料収集

これまで、資料収集活動は組織化されておらず、ほとんどが学芸員個人レベルの活動であった。そのため、ショーケースの仕様・容量が決まってから資料の収集活動を行うという泥縄的なものとなった。そのような中で、国内外を問わず数多くの博物館、大学、研究機関、民間企業等の協力を得ることができ、さらに国内外での資料購入を行うなどで、オープンまでに展示資料をそろえることができた。しかし、資料展示を充実するためには豊富な収蔵資料とそれを支える日常的な収集活動が必要である。

・館内工事

館内工事のための展示場閉鎖期間は、1ヶ月間という短いものであった。このため、展示物のテストランを工場で行わざるをえなかった。そのため、分解・組み立てという余分な行程が必要となった。

6.まとめ

5億円規模でありながら、展示改装の基本設計から施工までが16ヶ月という非常に厳しいタイムスケジュールであった。それにもかかわらず、完成した展示場は前年度比20%を超える入館者増で好評を得ている。11名の学芸員集団の存在と設計施工業者・()ムラヤマの会社あげての協力がこれを可能にしたと考える。

その一方で、学芸課の組織化が不十分であったため、各学芸員の力を充分引き出すことはできなかった。すなわち、展示品を考案する過程で、机上での議論が多くなってしまった。展示に対する来館者の反応や教育的効果などは、学芸員の予想を裏切ることがほとんどと言って過言ではない。机上で理解できるものではない。これは今までの経験から認識されているはずであるが、そのための調査活動は個人的なものでしかなく、組織化することができなかった。この活動はすでに欧米ではevaluationとして定着している。当館でも、展示事業を科学的に遂行するための組織化が必要と考える。さらに、静的展示とハンズオンとが補完しあう、というテーマはまだまだ実現されておらず、今後の大きな課題である。

 

参考文献

1.本編「大英科学博物館展」実施報告

2.「ハンズ・オンとこれからの博物館」

ティム・コールトン著、東海大学出版会
付録・展示委員会提言(抜粋)