月刊うちゅう 2005 Vol.21 No.11
磁力線  

 去年、ジュニア科学クラブで磁石に関する宿題(本誌6月号掲載)を出したところ、平口悠一君が素晴らしいレポートをしました。小学生のレベルを超えていましたので、解説できないまま今日に至ってしまいました。そこで、今回は平口悠一君の大発見を紹介することにしましょう。
 さて、ジュニア諸君への宿題は「冷蔵庫などにメモを貼り付けるための磁石は、図1のように鉄枠を帽子のようにかぶせて、磁力を強くしたものがあります。どのようにして強くなっているのでしょうか?」というものでした。


図1


 期待していた解答は「図2のように、鉄帽子が磁石になって、磁石の裏側のS極が表に出てくる。それで、磁力は倍増される。」でした。平口君は「鉄帽子を付けると表面付近では強くなるが、表面から少し離れると、逆に鉄帽子がないときより弱い。」と、図2だけでは理解できないことを発見したのです。


図2

 

 それでは、この発見を、磁力線をイメージして考えることにしましょう。磁力線とはN極から水があふれ出して、S極へ流れ落ちるようなイメージを与えるもので、小学校では砂鉄でその様子を観察することがあります。科学館の展示場でも磁力線を見ることが出来ます(図3)。


図3


 まず、一様な磁力線の中に磁石が入ったらどうなるか考えてみましょう。N極は磁力線に押されます。一方、S極は磁力線に引き込まれます(図4左)。つまり回転します。そして、図4右のようになると、N極は押され、S極は引っ張られ、ちょうど釣り合ってしまいます。こうなるともう動きません。磁石同士は引き合うのが現実ですので、この説明は納得できないですよね。

  
図4


 実は、磁石から出る磁力線は一様でなく、図5のように磁石から離れると隙間だらけです。ですから、引っ張る方が強く、押す方は弱くなるので、磁極の方へ引き付けられるのです。つまり、磁石を強く引き付けるには、磁力線の濃いところだけでなく、薄いところも必要なのです。


図5


 さて、鉄帽子をかぶった磁石を考えましょう。磁力線は図6のように磁石表面から鉄帽子の方へ流れ込みます。それで、磁石と鉄帽子の表面は濃くなり、少し離れるだけで磁力線はほとんどなくなってしまいます。表面付近は濃い薄いの変化は急激です。この辺りでは鉄は磁力を感じて磁石になり、濃い薄いの急激な変化を感じて強烈に引き付けられます。ところが、磁石の表面から少し離れてしまうと、ほとんど磁力線がありませんし、濃い薄いの差もありません。それで、鉄は磁石に反応しなくなるのです。これが平口君の大発見の謎解きです。磁力線のイメージで理解いただけたでしょうか?メモを挟む磁石ですから、ほんの近所だけ強く作用したらいいのです。うまい具合に設計されていますね。


図6
 

 磁力線で空間が磁極に作用する様子を考えました。このように、現代物理学では電気力や重力など全ての力を空間が作用するものとします。電磁波は電気と磁気に関する空間の作用が伝搬する波です。まだ見つかっていませんが、重力波も同じです。磁力線は単なるイメージではなく、実体があるのです。
斎藤吉彦:科学館学芸員