月刊うちゅう 2001 Vol.18 No.7
運動する物体は縮む?  


 最近、科学談話室でかの有名なアインシュタインが唱えた相対性理論のローレンツ収縮に関することで熱い議論がなされました。相対性理論が提唱する世界像は私たちが体験するものとまったくかけ離れたもので、しばしばテレビなどで取上げられたり、「猿の惑星」のようにSF映画のネタになったりもしています。科学談話室のみなさんは、相対性理論の一見矛盾したような場面に遭遇し、明け方まで悶々としてしまう毎日だったようです。今回はこのふしぎな世界の一片を紹介しすることにしましょう。

 図1はのぞみ号が停車している時を描いています。



図1.のぞみ号が停車している様子。


次に、のぞみ号がとてつもない高速(光の速度の約70%ぐらい、すなわち1秒間に地球を約5周)で通過しているとしましょう。この時のぞみ号は図2のように縮みます。



図2.のぞみ号がローレンツ収縮して走り去っていく様子。


では、のぞみ号の運転手にとって外の景色はどうなってるでしょうか?今度は窓の外の景色が超高速で後方へ飛び去っていくので、図3のようになります。


図3.のぞみ号から景色を見るとローレンツ収縮している。


このように運動しているものが縮むとうのが相対性理論の帰結でローレンツ収縮といいます。

 これが相対性理論の帰結だと言われても、納得できる人はまずいないでしょう。でも、こののぞみ号は本物の約240万倍の速さです。こんなに物体を速くして眺めることは到底できませんね。また、時速300kmで走る本物ののぞみ号もローレンツ収縮しているのですが、それは原子数個分程度です。ですから、この収縮を確かめるのは現代の科学技術の粋をもってしても不可能なのです。とても奇妙な光景でかんたんに納得などできないのですが、確かめようのない話ということで、ここではローレンツ収縮を認めることにましょう。

 さて、運転手と改札員を全く同じ大きさとしてみましょう。つまり、

運転手 = 改札員 (仮定)。

ところで、改札員から運転手を見ると図2のように運転手は平べったくなっています。つまり、

運転手 < 改札員 (図2)。

一方、運転手から改札員を見ると、図3のように改札員が平べったくなっています。つまり、

運転手 > 改札員 (図3)。

これは妙ですね。運転手と改札員は同じ大きさなのでしょうか?それともどちらかが大きいのでしょうか?

 世界地図で南極を見ると、本来の大きさよりかなり幅広くなっています。これは、南極・北極を極として地球表面をむりやり展開したので、極地付近が異常に伸びているからです。日本と日本の裏側を極として展開すると、日本がずいぶん伸びてしまいます。正確な大きさを知るには、地図を眺めるのでなく、地球儀など球面で観察しなければなりません。じつは、ローレンツ収縮はこれと同じことなのです。改札員から見たのか、それとも運転手から見たのか、その違いによって、同じ物が大きくなったり小さくなったりと一見矛盾したよう なことが生じるのです。大きさを比較する時は、地球儀で比較しなければならないのと同じで、図1のように運転手と改札員を静止させなければならないのです。

 まだまだ納得できないことと思います。しかし、相対性理論は既に現代の科学技術の基本理論となっているのです。一つだけ身近なものを紹介しましょう。それはカーナビという自動車に搭載する装置。目的地まで道先案内をしてくれるもので、最近普及してきました。これは人工衛星を複数機使って地上での位置を正確に求めるシステム(GPS)が利用されています。GPSを正常に作動させるにはGPS衛星の時計を相対論的計算で補正しなければならないのです。つまり、カーナビで楽しいドライブというのは、相対性理論を駆使したドライブと言ってもいいのです。

 紙数に限りがあり、相対性理論の一片しか紹介できませんでした。なぜローレンツ収縮がおこるのか?他の相対論的効果は?などは、別の機会に紹介しましょう。それまで待てないという方は下記を参考にして下さい。

中野・菅野著、相対性理論はむずかしくない、講談社・ブルーバックス

斎藤 吉彦:科学館学芸員