月刊うちゅう 2001 Vol.18 No.4
お茶漬け海苔 −浮力−  

 
お茶漬け海苔を先にかけた(左)のと後のもの(右)

 「お茶漬け海苔」という調味料をご存知でしょうか?お茶漬けをするときに使う調味料で、海苔とアラレと昆布やアミノ酸等が凝縮された顆粒とがアルミパックに詰められたものです。一袋全てを一杯のお茶漬けに使うのは多すぎるので、我が家では兄弟2人で一袋としています。さて、それがもとで大喧嘩がとなりました。先に振りかけた方は海苔、アラレが多い、後は顆粒ばかりで海苔・アラレはほとんどないとのこと。「よこせ!」「ぼくが先!」と始まったようです。じつはこの現象は最新科学技術がかかえる課題の一つなのです。
スペースシャトル内で毛利衛さんが主演された「宇宙で学ぶ理科実験」というビデオをご存知でしょうか?つい最近まで科学館展示場で上映していましたので、ご覧になられた方も多いかもしれません。その中で紹介されている実験の中に新超伝導合金の製法というのがあります。このビデオの冊子には、「夢の新素材として期待される超伝導材料。そのひとつ、アルミニウム・鉛・ビスマス合金はそれぞれの比重の差が大きいため、地上ではうまくまじらない。そこでこの実験では、無重力の宇宙空間を利用して均一な合金をつくることにチャレンジしている。この実験の成果が未来のリニアモーターカーに利用されるかもしれない。」とあります。なぜ、宇宙空間でないとこのような合金が作れないのかを、毛利さんは見事に説明されています。チョコレートとマシュマロの小片をたくさん透明の袋に入れ、地上でこの袋を振ると、重いチョコレートが沈み軽いマシュマロが浮きますが、無重力の宇宙空間で同じ事をするときれいに交じり合うのです。つまり、重力の作用する所では、常に重いものが下方に、軽いものが上方に行こうとする性質があり、そのため、地上では重いものと軽いものを均一に混ぜるのは大変むずかしいのです。スペースシャトル内は無重力ですので上も下もありません。つまり、重いものも軽いものも上下が分からないので、自分の行き場を忘れたように全くでたらめに動きます。それで、均一に混ざるのです。これを利用して地上では作ることのできない合金の生成に毛利さんは挑戦されたのです。 土井隆雄さんもその後のフライトで同様の実験をされています。
風船など空気より軽いものは上へ上へと行きます。これも上記のことと同様ですが、ちょっと妙ですよね。本当は風船も重力に引かれて下へ行きたいはずです。なのに、なぜ浮き上がるのでしょうか?空気より軽いから浮力が働くのだ、と言われてもちょっと納得しがたいですよね。そこで、次のように考えるというのはいかがでしょうか?空気も風船も重力に引っ張られるが、空気の方が重いので、その力は強い。したがって、風船は空気に押しどけられている。それで上へ行く。正確には風船が浮き上がるのでなく、空気が風船の下へ入り込んでいる、重いものが下へ沈んでいるのだ。いかがでしょうか?
さて、読者の皆さんにはお茶漬け海苔の問題はもうお分かりになられたことと思います。均一にしようとパックを振れば振るほど、軽い海苔・アラレと重い顆粒は上下にきれいに分離してしまうのですね。均一に混ぜるには毛利さんや土井さんのように無重力空間へ行くしかないのでしょうね。ところで、誰もこの話に興味を示してくれません。息子たちは相変わらず「よこせ!」「僕が先!」とパックの取り合いをしています。「えかげんにしなさい、2回分やで!」と、それぞれに一袋ずつ与えることにしました。科学技術の粋をどんなに集めても、これ以外に解決策はない、彼らは先端科学技術がかかえる難題を自ずから発見したのだ、と満足することにしました。