月刊うちゅう 1999 Vol.15 No.12

光のお話−偏光−

 偏光フィルターというのをご存知でしょうか?自動車を運転する時や魚つりなどでギラギラ反射してくる太陽光をカットしてくれるので重宝物です。写真を撮る時にも、このギラギラ光を押さえるのに使われます。今回はこの偏光フィルターを使った不思議な現象を紹介しましょう。なぜ、ギラギラ反射してくる光をカットするかは後に置いておいて、まずは実験から。
 偏光フィルターを2枚を使った実験から。写真1のように一枚を通して見るとちょっと暗くなります。


写真1

このフィルターは光を半分くらい吸収しているように見えますね。では2枚を重ねて上側のフィルターをちょっと回してみましょう。透明度が変わります。1枚の時とほとんど同じものから(写真2)、暗くなったのから(写真3)、そして全く見えない(写真4)のまでありますね。これは、ふしぎ!何がふしぎって、この偏光フィルターは透明度を半減するとしましょう。2枚で半分の半分、つまり透明度は4分の1となってしまうはずですね。ところが、写真で見るように、重ね方で透明度は2分の1から0まで変化しています。4分の1になるはずなのに...

写真2 写真3 写真4

  さらに、ふしぎな実験をもう一つ。真っ暗気になった2枚の偏光フィルター(写真4)の間にさらに1枚を入れてみます。すると、今度は明るくなります。偏光フィルターは、重ねかたで明るくなったり暗くなったり。偏光フィルターは江坂の東急ハンズで購入できますよ。試してみませんか?


写真5

 それでは、種明かしです。皆さんは「光は波である。水面にできる波と同じようなものだ。」というお話を聞かれた事がありませんか?じつはこれはちょっとおおざっぱなお話です。水面を伝わる波、水波は水面が上下に振動するのが伝わっていくものです。

 
水面にできる波

 一方、光は上下だけでなく、左右、斜め、好き勝手な方向に振動します。水面にできる波というより、ロープにできる波といった方が正確でしょう。ただし、横波というところは水波と同じですので、進行方向への振動はありません。ここで、後々便利ですので、偏光という言葉を一つ覚えて頂きましょう。光は好き勝手な方向に振動できるといいましたが、どの方向に振動しているか、というのを偏光と言います。


図1.光はロープをゆすってできる波と似ている


まとめ1:「光は偏光という振動の向きを持った波である。」

 次の種は偏光フィルターですね。先ほど説明しました偏光と言う言葉からだいたい想像が付きそうですね。実は偏光フィルターには向きがあって偏光をその向きに変えます。ですから、偏光フィルターを通過した光は偏光がそろっているのです。まさに偏光フィルターと呼ばれる所以です。さらに、偏光フィルターは偏光をそろえるだけでなく、図2のように光量を減少させます。ですから、偏光フィルターの向きと偏光が同じなら光はそのまま通過します。一方、2つの向きが作る角度が90度の時は、光は通れなくなってしまいます。冒頭で触れましたギラギラ光、すなわち水面やガラス面で反射された光は偏光が結構そろっているんです。ですから、偏光フィルターを使えばカット出来るというわけなんです。


図2.偏光フィルターの原理


まとめ2:光が偏光フィルターを通過すると、偏光は偏光フィルターの向きになり、その向きによって光量が減少する。

 さて、写真2〜4で2枚の偏光フィルターの向きはどうなっているのでしょうか?たくさんの光はそれぞれ好き勝手な偏光で一枚目の偏光フィルターを通過します。そして通過したあと、偏光はどうなるでしょう?すべて偏光フィルターと同じ向きですね。そして、次に2枚目の偏光フィルターを通過します。ここから先は読者の方への宿題としましょう。写真5もちょっとした発展問題ですね。まとめ2から考えてみましょう。図3にヒントを与えます。
 


図3.ヒント


 偏光という性質はいろんなところで利用されています。たとえば立体映像。左目で見る映像を縦偏光、右目で見るのを横偏光として1つの画面に映します。このまま見ると2つの映像が重なってぼやけて見えますが、左目は縦向きの偏光フィルター、右目は横向きのを通して見ると、それぞれの目で見たくない光がカットされるので立体映像となるのです。それから、液晶画面にも利用されています。2枚の偏光フィルターを同じ向きに重ねたものの間に、透明で電圧をかけると図2のような効果で偏光を90度回転させるようになる性質のものが挟まれています。それで、電圧がかかった所を暗く、かからない所を明るくし、明暗の点で画面上に画像を作るのです。また、天体の磁場を観測するのにも偏光は重要な役目を果たしています。
 偏光の世界、いかがでしたでしょうか?みなさんも偏光フィルターをいじってこの世界にひたってみませんか?

さいとうよしひこ 科学館学芸員)