月刊うちゅう 2002 Vol.19 No.7
クォーク星  

4月に米航空宇宙局(NASA)が記者会見を開き、「物質をつくる基本粒子クォークでできたクォーク星とみられる全く新しいタイプの天体を発見した。」と発表した。今原稿を書いている数週間前、物理学会誌とパリティにこの事の解説記事が掲載された。クォーク星と結論するには時期尚早という雰囲気である。数日前、この星が普通の中性子星だったという情報が舞いこんできた。一体この騒ぎはなんなのだ!?ということで、クォーク星について考えてみよう。
太陽のような恒星は、核融合といって、水素などの原子核を燃料としている。主に4つの水素核がくっついてヘリウム核になることで放熱しているのである。恒星は、いずれ燃え尽きて灰になる。灰になってしまった星が白色矮星、中性子星やブラックホールなのだ。
白色矮星は400kg/cm3の高密度の天体である。指先程度で自動車1台分の質量にもなるのだから、我々が毎日接している物質とは全く違う。じつは、原子がつぶれて原子核と電子のスープになったようなものなのだ(図1)。

図1.原子核と電子のスープ。ここで、pは陽子、nはは中性子を表す。

白色矮星より高密度の天体が中性子星で、5億トン/cm3にもなる超高密度である。指先程度で5億トンだから想像すらできない。これは原子核と中性子のスープでできている(図2)。

図2.原子核と中性子のスープ。ここで、eは電子、pは陽子、nはは中性子を表す。

このスープは次のようにしてできる。 原子核と電子のスープを無理やり押し縮めると、電子は原子核に押しこめられ、電子は原子核中の陽子に呑み込まれる。この陽子が中性子となり、原子核からこぼれだして、このスープができる。中性子星より高密度のものはブラックホールが確認されている。一般相対性理論によると、物体を収縮させて、どんどん高密度にすると、ブラックホールになってしまうのだ。これは、なんでも吸いこむだけで、決して外へ物体を出すことはない。光すら出てこない、真っ暗で吸いこむだけ、まさにブラックホールなのだ。
 燃え尽きて灰となった天体は、白色矮星、中性子星、ブラックホールと3種類だけが確認されているのだが、中性子星とブラックホールの中間的な天体が存在してもよさそうである。じつはこれがクォーク星で、一部の研究者が予測していたらしい。陽子や中性子はクォークからできているので、これをつぶせば、クォークのスープができるかもしれない(図3)。

図3.クォークのスープ。uはアップクォーク、dはダウンクォークを表す

じっさい、原子核実験でクォークスープが確認されているようだ。最近では米ブルックヘブン国立研究所の大型加速器で金の原子核同士をぶつけることでクォークスープの兆候が見えたそうである。原子核サイズなら、人工的には可能なようである。
クォーク星騒動の主はスミソニアン天文物理天文台のDrakeたちで、「RXJ1856.5−3754は質量が太陽の0.7倍以下、半径が5.6km以下の天体である。」という論文発表をしたのである。これが本当なら、太陽質量の0.7倍以下の中性子星は半径が10km以上なので、RXJ1856.5−3754は中性子星より高密度の天体ということになり、クォーク星の可能性大なのだ。ところで、Drakeらの結論はChandraX線衛星による観測に基づくものである。すなわち、X線専用の色眼鏡で見た結果なのだ。さらに、RXJ1856.5−3754の発するX線は周囲の分子雲のガスがこの天体に落下するときに発するものと仮定している。この仮定がスタンフォード大のRomaniたちに否定されたのである。「X線、紫外線、そして可視光で確かめた結果、RXJ1856.5−3754は半径14kmの普通の中性子星で、小さな明るくて熱い極を持ったものであることが分かった。そして、この極が小さな天体かのように見せていただけで、Drakeらの結論は早計であった。」という論文を発表するそうである。 中性子星は超新星爆発で外側の軽い層を吹き飛ばした後に残る天体で、1968年に発見されている。一方、クォーク星はまだ発見されていない。また、天体レベルでのクォークスープが可能であるとして、それが宇宙で本当に作られるのであろうか?まだまだ確かな理論もないようである。はたして、この宇宙のどこかにクォーク星が存在するのであろうか?