月刊うちゅう 2003 Vol.20 No.4
ロケットのひみつ  

 この夏のサイエンスショー1は、「ロケットのひみつ」です。「なぜ、ロケットが飛ぶのか?」の本質にスリル満点の実験で迫っています。図1はその一場面です。「ロケットで飛んでみたい人、いますかー?」との学芸員の誘いに、「ハイッ!ハイッ!ハイッ!」と元気よく、園児が実験台になってくれました。ブロワーから吹き出る強風の反動で、園児を乗せた台車がスルスルスルと滑り出しました。この強風は、なんと風速55mで大型台風以上です。そして、一秒間に300リットルもの空気が吐き出されます。人を水平に動かすだけでこれだけの強風が必用です。

図1.ブロワーか噴出す風の反動で動く台車

 それでは、本物のロケットは、どれだけの爆風を噴出しているのでしょうか?スペースシャトルの総重量は2000トンです。わずか2分ほどで地上から50kmもの高さまで飛んでいきます。このとき、およそ1000トンの酸素を含んだ燃料が消費されます。つまり、1000トンの火薬を2分間連続的に爆発させるのです。とてつもない爆風でしょうね。一体、どれぐらいなのでしょう?一様に加速するとして概算してみました。なんと、写真右の燃焼ガスは、風速3000mで、一秒間に10トンとなりました。2この値は推力と一致しますので、理に適った答えが出ているようです。


図2.爆風で離陸するスペースシャトル(NASAホームページより)

 

  次に、ロケットの原理を使った逸品を紹介しましょう。著者が考案したロケットめがねで、息を後方へ噴射するように工夫したものです。図3のように、フレームがパイプでできていて、鼻の穴に突っ込むようにしました。これをかけて走ると、ちょっとは速くなるというすぐれものです。「そんなので速くなるわけがない!」と、お叱りを受けるかもしれませんね。


図3.ロケットめがね

なにはともあれ、とりあえず計算をしてみました。1回に吐く息を100cc、風速1mとしましょう。冒頭のブロワーロケットとは比べ物にならないぐらい微量です。50kgの人がこのめがねをかけたとすると、1息で0.003mm/sだけ速くなる事が分かります。やはり、ほとんど0でした。しかし、マラソンにロケットめがねを使えば、2時間吐き続けることになるので、塵も山となるかもしれません。じっさい、1秒間に1呼吸を2時間続けるとすれば、1キロの力で0.1秒間背中を押してもらう事に相当します。ゴール間近のデッドヒートなら、わらをもすがりたい気分でしょう。その時のことを思えば、ちょっと欲しくなる代物かもしれませんね。でも、常に鼻から息を出して走る訓練が必要になるので、やっぱり誰も使わない、というのが冷静な判断のようです。
 さて、これらの計算の基礎になるのは、運動量保存の法則といって、物理学のとても重要な法則で、物体が衝突したり、バラバラになったりするとき、各物体の質量と速度にある関係を与えるものです。ロケットの場合、噴出ガスの量と速度が大きければ大きいほど、ロケットは速くなり、一方、ロケットの重量が大きければ、なかなか動かないのですが、これを運動量保存の法則を使ってきっちり表すことができます。たとえば、発射時、質量Mのロケットが質量mのガスを噴出速度vで噴出して速度Vとなったとすると、MV=mvという関係になります。この法則から、噴出ガスの量と速度が分かれば、ロケットの飛び上がる様をきっちり計算する事が出来るのです。この運動量保存の法則を発見したのはフランスのデカルトで、ニュートンが生まれる20年ぐらい前のことです。デカルトは、全宇宙は渦運動をする微細粒子で満たされていて、この渦運動で宇宙や地上での出来事をすべて説明しようとしました。現代の自然観とは全く異なるものですが、運動量保存の法則という自然界の本質的な法則を発見したのです。自然観は時代とともに変遷しますが、自然法則は変わる事がないということですね。


図4.デカルト(1596-1650)

1科学館展示場で学芸員が行う実験ショー。
2 http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~saito/job/others/shutle.htm