霧箱実験・陽電子が見えた?

かんたん霧箱  6月28日、科学館ゼミナール(学芸員や館長が講師の連続講座)の 「素粒子を観る」で、霧箱という装置内に発生する放射雲 で宇宙線や放射線の観察をしました(右写真:ガラス容器にアルコールを入れラップをし、底を液体窒素で冷やす。放射線雲がよく見えるように内部を横から懐中電灯で照らす)。


この時のビデオを編集していて気付いたのですが、すごいものが写っていたようです (下写真:中央部に鯨の噴水型の放射線雲が見える。 この噴水の根元でγ線(高エネルギーの光)が陽電子(左)と電子(右) の対に変身したようにも見える)。

それは1932年にアメリカのアンダーソンが発見した陽電子という素粒子です。当時、反粒子という概念が提唱されていましたが、その証拠はまだありませんでした。反粒子とは粒子に対して存在するもので、粒子と質量などの性質はまったく同じ、しかし電荷が粒子と反対のものです。例えば電子は電荷が-1の粒子ですが、その反粒子が陽電子で質量など電子と全く同じで電荷が+1というものです。

アンダーソンはこの陽電子を発見したのです。世界初の反粒子発見ということで物理学会は震撼したそうです。そして、彼はこの発見でノーベル賞を受賞しています。

このような現象に簡単な装置で挑戦できるのです。

 さて、上の写真はγ線(エネルギーの非常に強い光)が陽電子と電子に変身したもののように見えます。「これが陽電子だ!」といいたいのですが、確信を持てない点があります。


霧箱実験
 霧箱実験はアルコールの雲で放射線を見る実験です。方法はいたって簡単で、

  1. ガラス容器にアルコールを入れ
  2. ラップでふたをし
  3. 底部を液体窒素で冷やし(ドライアイスで冷却しても可能)
  4. しばらく待つ
すると、アルコールの雲が白い糸のようになって現れては消えるという現象が観察できます。このアルコールの雲は放射線が飛んだ跡にできる 放射線雲(本編の造語)で「そこを放射線が飛んだのだ!」という証拠です。放射線雲は飛行機雲と似ていますね。

 次に、このガラス容器を強力な磁石の上へ置いてみます。すると、円軌道の放射線雲が現れます。この実験で見える放射線は電荷を持っていますので、その軌道が磁石の力で曲げられ円軌道となるのです(参考:展示場3階・グロー放電)。

この曲がり具合と射線雲の太さから放射線の種類を見分けることができるようになります。例えば、鳴門状の放射線雲は渦の向きから電子であるかあるいは陽電子であるかを区別することができます。

<参考文献>森雄兒:物理教育43-3(1995)269

放射線雲
 霧箱は上部が常温で底部が液体窒素で冷やされ、そしてアルコールの蒸気が充満しています。上部にある温かいアルコールの蒸気は液体窒素(摂氏-200度)で冷やされた底部に漂ってきて冷えます。そうすると、わずかな刺激で液滴になってしまう状態(過冷却)になります。そこへ放射線が飛び込んでくると、そのかすかな刺激でアルコールは液滴になります。

これが白い糸のようなアルコールの雲、放射線雲の正体というわけです。つまり放射線雲は放射線の飛跡なのです。これらは空中を漂っているラドンなど放射性物質から出る放射線と宇宙から地球に飛びこんできた粒子が大気分子と衝突したときに発生する2次宇宙線(参考:展示場4階・スパークチェンバー)です。もちろん、霧箱にウラン鉱石などを入れるとそこから放出される放射線を観察することもできます。


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