飛行機に乗ると、体重は軽くなりますか?
これは讀賣新聞の読者から寄せられた質問を、科学館の学芸員がお答えしたものです。

簡単そうにみえて難しい問題です。乗物の中で体重をきちんと測るのはとても難しいことです。上下方向に加速度運動をしていると体重が変化してしまうことは、たとえばエレベーターの中で体重を測ってみれば分かると思います。飛行機がガタガタ揺れているようでは体重を測ってもあまり意味がありませんからここでは飛行機は揺れ無しで水平飛行をしていることにしましょう。高度は10km、速度は時速1000kmとします。この高度と速度は大型ジェット機のものとして実際とそう違っていません。この条件で体重が軽くなるかどうかですが、結論から言えば、軽くなるが答えとなります。でも、測れないほどわずかだったらあまりおもしろくありませんね。実際のところどの程度軽くなるのでしょう。

ところで、飛行機など乗らずに地上で測っても場所が変わるとわずかですが体重が変化してしまうことをご存じでしょうか。体重のもととなる力は地球の万有引力が主ですが、地球の自転による遠心力もわずかですが寄与しています。自転速度は赤道上で最大(時速約1670km)となり、遠心力は引力の1/290程の大きさになります。さらに、赤道半径は極半径に比べて21kmも長いので万有引力も1/150程度小さくなります。したがって緯度が低いほど重さが軽くなる傾向があります。非常に精密な測定では、同じ質量の物を測ると、たとえばシンガポールではヘルシンキに比べ重さが1/256軽くなってしまうことが測られています(
実際には重さではなく重力加速度という物理量を測定します。)

飛行機の高度や速度は、ここで述べた半径の差や自転速度と同程度です。したがって場所による重さの違いと同程度の大きさの違いが現れておかしくありません。遠心力の効果は、飛行機が自転の向きと同方向に飛べば強まり、反対方向に飛べば弱まります。遠心力は速度の2乗に比例するので実際かなり効いてくるはずです。さらに飛行機の高度により、万有引力が1/320程小さくなります。正確さを期すのなら、経度などこまごまとした点を考慮しなければいけませんが、自転による遠心力が強まる東向きに先の条件で飛んでいれば1/200程度は軽くなる、つまり体重50kgの人で250gくらいは軽くなることが期待できます。これだけ地上との差があれば、体重計で測って違いが出そうです。

先の条件では万有引力が小さくなってしまって厳しいですが、遠心力の効果が薄れるよう西向きに、そして万有引力が変わらない低い高度で飛べば、逆に地上で測るより重くなことも起こりそうです。


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