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■コエンザイムQ10で若返り?!

月刊「うちゅう」2005年8月号 化学のこばなし(55)より


 サプリメントや化粧品などで見かける「コエンザイムQ10」。成人病や肌のシワなどを予防して、若返り・美肌に効果的なのだそうですが…。

■コエンザイムQ10はこんな化学物質
 1957年、イギリスのP.A.Mortonらがラットの肝臓からある物質を単離。この物質はユビキタス1) なキノン2) であったため「ユビキノン」と命名されました。同じ年、アメリカのF.L.Craneらがウシの心筋ミトコンドリアからキノンの一種である物質を分離。この物質を「コエンザイムQ」と命名しました。 翌1958年、これら2つの物質が同一のものであることがわかり、K.Folkersらがその分子構造を確定しました。1978年には、イギリスのP.Mitchellが、体内のエネルギー生産とコエンザイムQ10の役割を明らかにする研究で、ノーベル化学賞を受賞しています。

  コエンザイムQ10(ユビキノン)


  ユビキノール(酸化されたコエンザイムQ10)

 コエンザイム「Q10」は、分子の中の「イソプレン(Q)…右の分子構造中の括弧でくくられている部分」の数が「10」個という意味で、生物の種類が変わると数も変わり、たとえばマウスは9、ウサギ、ヒトでは10です。 
 
 体内に入ったコエンザイムQ10は、すぐに肝細胞や赤血球の酵素(それぞれどの酵素かはまだわかっていません)によって還元3) されてユビキノールという物質に変わります。健康な成人の血しょう中では、コエンザイムQ10:ユビキノールの割合が4:94と、実は圧倒的な量が還元型のユビキノールに変化しています。

 1)ユビキタス(ubiquitous):同時に、どこにでもあること。 
 2)キノン(quinone):芳香族化合物でベンゼン環の水素原子2つが酸素原子2つで置換した構造をもつ化合物の総称。 
 3)簡単には、酸化された物質を元に戻すこと。


■コエンザイムQ10と人間のからだ
 なんといってもユビキノールの特徴は、還元力。体内で発生した活性酸素を還元して毒性の低い状態にします。活性酸素は、人間をつくる60兆個の細胞の膜(リン脂質が主成分)などを酸化し、その結果、病気や肌のシワを作ると言われています。ユビキノールの還元力は体内にあるビタミンEに匹敵するほどで、ユビキノールとビタミンEが共存すると、それらの還元力はさらに強まります。またビタミンEだけでは脂質の酸化は抑制できなかった、という実験結果もあります。

 人間など生物のからだには生まれつきコエンザイムQ10があり、最も多く存在しているのは細胞内のミトコンドリア。このほか細胞膜や血液など体内のあらゆるところ(つまりユビキタス)に存在しています。でもヒアルロン酸(「うちゅう」2005年2月号参照)と同じように、歳を重ねるごとに代謝のスピードバランスが崩れて量が減ります。臓器によって異なりますが、たとえば肺や心臓では、20歳代を100%とすると80歳台では50%まで減少、皮膚では20歳代に比べて80歳代になると3分の1に減少するというデータがあります。

■コエンザイムQ10の使いかた
 日本国内では、1994年から医薬品、2001年から食品、2004年10月1日から化粧品への配合が認可されています。医薬品としてはうっ血性心不全、脳血管障害、抗がん剤の副作用防止などに用いられており、食品(サプリメント)や化粧品分野では、活性酸素を抑制する結果としての効果が謳われています。年齢とともに減少する量を補うためにサプリメントとして飲むなら、コエンザイムQ10は脂溶性(水には溶けにくい)ビタミンの一種なので、油ものを含む食後に飲む方がよく、空腹時にしかも水で飲んでも溶けにくく吸収されないので、無駄になります。また副作用など使用上の注意は、参考文献@などで事前に確かめてください。ちなみに世界中で利用されているコエンザイムQ10は、すべて日本の企業が生産しています(日清ファルマ(株)、(株)カネカ、旭化成ファーマ(株)、三菱ガス化学(株))。アメリカでは10年以上前から人気のあるサプリメントとして使われているというのに、これには驚きました。

 私はまだ自分の体で実験していないので、コエンザイムQ10のサプリメントや化粧品の効果はよくわかりませんが、コエンザイムQ10の還元力は、その他のビタミンの存在によって活躍させることができるということでしたね。まずはバランスのよい食事で、私たちの健康に必要な栄養素を上手に摂りたいものです。


参考文献
 @「健康食品の安全性・有効性情報」コエンザイムQ10・ユビキノン・ビタミンQ(独立行政法人国立健康・栄養研究所
 A「抗酸化物質のすべて」(先端医学者(1998)102頁『コエンザイムQ』山本順寛/山下聡)
 B日本脳死・脳蘇生学会誌(2003)5頁『解り易い活性酸素・フリーラジカル』山本順寛
 C日本コエンザイムQ協会ホームページ


(2005.08.10.岳川有紀子



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