暮らしのなかの化学をたのしもう
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■ペットボトルがフリースになるの?■
2月、暖かい春がわたくしとても待ち遠しいです。3年くらい前から流行しはじめた「フリース」、みなさんはご存知ですか?フリース生地の服は暖かくて軽い(しかもお店によっては安い)ので、愛用している方も多いかもしれませんね。まずは今月の話題のペットボトルからおはなしをはじめましょう。
■ペットボトル、いつからこんなに使われてたっけ?
ペットボトルは今ではわたしたちの生活にすっかりおなじみですが、いつ頃からこんなにも使われるようになったのでしょう?
思い出してみると、20年くらい前、1リットルのジュースはガラスのビンに入っていて、子どもの私にとっては重たいものだった記憶があります。10年くらい前でも、ペットボトルはなく、私の通っていた高校では牛乳パック(中身は牛乳ではない)にストローをさして飲むというスタイルが流行でした。
実は、ペットボトルが清涼飲料水のボトルに認可されたのは1982年、ただし今のようによく使われていると実感するようになったのは、飲料業界が1リットル未満のボトル使用の自主規制を撤廃した1996年以降になるでしょう。みなさんの記憶と一致しますか?
■色つきペットボトルが消えるとき
「限りある資源を大切に」といわれる昨今、ペットボトルは特に不純物(硬さを調整する添加物や着色料など)が混ざっていないプラスチックとして、リサイクルが期待されています。なかには中身を紫外線から保護するために
緑色など着色されているボトルもありますが、2001年4月に「リサイクルの効率を低下させる色つきボトルの使用は一年以内に自主的に廃止」と飲料業界間で決められましたので、この4月には色つきボトルは私たちの前から姿を消す・・・はずです。
※ 実際、色のついたPETボトルは見かけなくなりました。(2004年12月8日)
今や貴重な緑色のPETボトル
緑色に見えても、緑色のフィルムがボトルに巻いてあるだけ
さて、回収されたPETボトルは、その56%(6万8千d中3万8千d)が繊維として生まれかわります(2000年)。この繊維は、PETが"エステル結合"がたくさん("ポリ")ある高分子なので、「ポリエステル繊維」といわれます。ポリエステル繊維は三大繊維のひとつで(他はナイロンとアクリル繊維)、ふつうは石油を原料につくられますが、回収したペットボトルを、加熱して溶かして液体にしたものを細い管から押し出して("ところてん"のように)、さらに引っ張ってできた繊維は、リサイクルポリエステル繊維として作業着やカーペットなど、そして「フリース」になります。
日本でのペットボトルの生産量とリサイクル率
各国 (アメリカ・ヨーロッパ諸国・オーストラリア・韓国など) のペットボトル生産量とリサイクル率など
■ペットボトルからフリース(fleece)へ...
フリースのもともとの意味は、羊の毛を刈るときに一匹分がバラバラにならずにうまく刈れた状態をあらわすもので、織り目が見えないくらい起毛している布をいいます。今月話題のフリースは、確かに織り目が見えないくらい起毛していますが、羊毛製ではなく多くがポリエステル繊維製で、一部の会社のフリースにペットボトルからのリサイクルポリエステル繊維が使われているというわけです。その先駆けとなったのは、アメリカの"パタゴニア"というアウトドアメーカーのフリース。ちなみに、フリースで有名になった(と私は思っている)"ユニクロ"という会社のフリースは、リサイクルポリエステル繊維は使われていませんが、着なくなったフリースを回収して、断熱材や固形燃料の材料にリサイクルしたり、発電施設で燃焼させて電気エネルギーをつくったりしているそうです。
■このマークが目印です!
回収されたペットボトルは、繊維以外に、溶かして再度成型してプラスチックとして使われるものもあります。もしその製品がペットボトルのリサイクル品(25%以上原料として使用していること、などいくつかの条件を満たしている場合)で、PETボトル協議会の再利用委員会で承認されると、その製品には下のようなマークがついてきます。私のボールペンにもこのマークがついていますよ。
PETボトルの"PET"は、ポリエチレンテレフタラート(poly ethylene terephthalate)の略です。日本では石油から合成されたポリエチレンテレフタレートのうち66%が繊維(ポリエステル繊維)に、23%がペットボトルになります(1998年)。さわっても別にあたたかくないあのペットボトルが、あたたかいフリースに生まれかわる、この化け方は化学のちからっていう感じがしますよね。
なお文章中の消費量、リサイクル率などの数値は、ペットボトルリサイクル推進協議会のホームページを参考にしました。
(岳川有紀子:科学館学芸員)
(2004.12.08.更新)
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