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■ネバネバ納豆■





月刊「うちゅう」2001年10月号 化学のこばなし(29)より


 納豆ほど、好きと苦手が分かれる食べものもないかもしれません。私は大好きなのですが。
 パックに入ったネバネバの納豆(糸引き納豆)のつくり方は、大豆を煮て納豆菌をふりかけ、パックに詰めて、菌が活動しやすい温度湿度(45〜52℃、80%)に保って20時間程度発酵させる、のだそうです。
 納豆は「腐ったもの」と言われることもありますが、納豆は腐っている(腐敗)のではなくて発酵しているのです。発酵と腐敗の違いは、微生物などによって食べ物が分解された際に、人間にとって有害なもができなければ発酵、有害のなものができれば腐敗となります。


■ネバネバの正体はなんだ?

 昭和38(1963)年、福岡女子大学の藤井久雄氏が日本農芸化学会誌で発表した「納豆菌による粘物質の生成に関する研究」以来、納豆のネバネバの主成分は、グルタミン酸というアミノ酸がつながったポリグルタミン酸、果糖という糖がつながったフルクタンというふたつの物質であることがわかっています。納豆の糸のポリグルタミン酸とフルクタンの割合はおおよそ5.5:4.5で、糸は納豆の重さの約0.1〜0.8%を占めています。
 それでは、納豆の糸をじっくり見ていきましょう。

  グルタミン酸  グルタミン酸

  ポリグルタミン酸  ポリグルタミン酸


■ネバネバの本体:ポリグルタミン酸

 ここに真珠のネックレスがあったとしますね。そのひとつひとつの真珠の粒をグルタミン酸だとすると、ネックレスがポリグルタミン酸です。つまりポリマーという状態ですが、このネックレスは10万個くらいの真珠の粒がつながっている非常に長いもので、輪になっているとも限りません("ポリ"については2000年5月号参照)。
 グルタミン酸はアミノ酸の一種です。人間のタンパク質を構成するアミノ酸としてグルタミン酸もそのひとつに数えられます(タンパク質はアミノ酸がいくつもつながったもの)。
 人間にとってグルタミン酸の存在が大きく関わっているものとしてよく挙げられる例に、鎌状赤血球症という病気があります。赤血球は鉄にタンパク質が結合していますが、そのタンパク質を構成するアミノ酸のなかのグルタミン酸がバリンに変異すると、赤血球が鎌のような形になり、貧血を引き起こします。また、グルタミン酸の水素原子(H)がナトリウム原子(Na)に変わったものは、うまみ成分としておなじみのグルタミン酸ナトリウムですね(グルタミン酸ナトリウムについては2001年3月号参照)。

  グルタミン酸ナトリウム  グルタミン酸ナトリウム


■ネバネバをささえるフルクタン

 フルクタンは、果糖(フルクトース)というブドウ糖(グルコース)によく似た糖が、これもまたポリマー(多糖類)になっているものです。ポリグルタミン酸の網目に絡まって、その安定性を保っていると言われています。果糖はその漢字からも想像できますが、果実の中の甘さの成分になっている分子で、甘さは砂糖の1〜1.7倍程度(低温ほど甘く感じる)、でもポリマーとしてのフルクタンになると特に味はしなくなります。

  フルクトース  フルクトース(果糖)


 また、ぶどうなど果糖がたくさん含まれるものを微生物をつかって発酵させると、ワインなどのお酒(アルコール)をつくることができます。

   C12   →    2C2HOH   +  2CO
   果糖・ブドウ糖         アルコール(エタノール)    二酸化炭素


 (岳川有紀子:科学館学芸員)

(2004.12.09.更新)

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