暮らしのなかの化学をたのしもう

岳川ゆきこのホームページへようこそ



大阪市立科学館研究報告 第14号 2004年

博物館展示用顕微鏡「WENTZ SCOPE」について

岳川有紀子
大阪市立科学館 学芸課

概要

 博物館施設などで主に展示用に利用することができる「WENTZ SCOPE(ウェンツ スコープ)」という顕微鏡がある。これは、顕微鏡を覗く習慣のない人でも簡単に像を見ることができ、また普通の顕微鏡に比べて格段に高い耐久性がある点が特長である。今年度、展示物として導入したので、その経緯と展示化について報告する。

1.はじめに
 顕微鏡は、生物や物質などの普段見えない細部までを拡大して見ることができる光学機器である。学校教育では小学校で登場し、実際に覗いたりプレパラートを作ったりする。科学館施設においても、顕微鏡を使って動植物を拡大して見る展示物を見かけることがある。このように、「目に見えないところを見ようとすること」、「目に見えているものが全てではないこと」、を経験する、知ることは、科学を学ぶ上でも大切なことであると言える。

   写真1.調査の様子:小さな子どもでも覗こうとする。

 当館ではこれまで顕微鏡を使った展示物がなかったが、今年度、顕微鏡の導入に向けて調査、検討を行った。まず、よく学校・研究で使われている通常の顕微鏡では、常設展示において耐久性が弱いことは課題として容易に予想できた。実際に顕微鏡を利用した来館者の調査でもこの点は明らかになった。例えば、どんなに小さな子どもでも顕微鏡に興味をもち触りたがり覗きたがること、覗こうとするとき・覗いているときに自分の体の支えとして顕微鏡の鏡筒を力の加減なく握ること、そのために顕微鏡が倒れること、などがよく観察できた。
 また、小さな接眼レンズでは、顕微鏡に慣れない子どもたちにとって覗きにくいという課題も上がった。目と目の間に接眼レンズをくっつけて見ようとする事例もあるそうで、さらに大人でも自分自身のまつ毛が写りこむことがあり、実際に見えているのか見えていないのかもわからないことが多かった。
 このように、通常の顕微鏡を展示物として利用するにはいくつかの課題があり、展示手法の工夫の必要性を改めて認識すると同時に、かつて見学した博物館用顕微鏡の導入を検討した。

2.国内外のWENTZ SCOPE
 この博物館用顕微鏡は、「WENTZ SCOPE」という商標で、当館では長谷川学芸員がアメリカを訪問した際に見たものが、最初の報告であった。

    写真2.リバティサイエンスセンター(アメリカ・ニュージャージー州)で展示されていた WENTZ SCOPE(1998年2月撮影)。虫の頭など、いくつかのプレパラートが選択可能。

 このWENTZ SCOPEの特長は、見学者にとっては、接眼レンズがスキーのゴーグルの様に大きく、この接眼レンズの視野いっぱいに像が見えるという利点があり、科学館にとっては接眼・対物レンズなど顕微鏡の部品の全てがひとつの頑丈なケースに覆われていることが耐久性を確保しメンテナンスを軽減することができる点が利点である。

    写真3.日本においてもWENTZ SCOPEが使われていた(2000年「21世紀夢の技術展」にて)。 この他、滋賀県の琵琶湖博物館でも同じ顕微鏡 WENTZ SCOPEが使われている。

 このように、不特定多数の見学者が利用して見ることができる顕微鏡として、WENTZ SCOPEは優れたものであると思われた。欠点といえば、一見、顕微鏡に見えないことだろうと思われる。先に述べた調査の際には普通の顕微鏡を使っていたため、一見して「顕微鏡だ!」と気が付いて近づいてくる子どもたちも多く見かけたが、そのような効果が薄くなるのではないかと思われた。また、顕微鏡らしくないという外見、また像が大きく見えるため、実際にはプレパラートの資料を拡大して見ているにも関わらず、あたかも映像(写真)を見ているように誤解されるのではないかという心配もあった。

3.WENTZ SCOPEの入手
 実際にWENTZ SCOPEを入手しようとしたところで(この顕微鏡の名称はリバティサイエンスセンターで撮影した写真の中にネームプレートがあったためすぐにわかったが)、日本での代理店または輸入販売業者を調べたところ、2003年の秋現在で、以前、輸入・販売を行っていた業者差がなくなっていたり、取り扱わなくなっており、新たに、別の業者に輸入販売を行ってもらった。制作会社は以下のとおり。
 ・Budd Wentz Productions 社:
    電話 510−531−1214
   FAX510−336−1650
 ・納期:受注生産および手作りということで、1台につき納期が3ヶ月程度必要ということであった。
 ・価格:空輸費用・関税を含めて1台につきおよそ3000ドル(2003年秋現在)。

4.WENTZ SCOPEの展示化
 当館では、写真4のようにWENTZ SCOPEをテーブルに固定して展示を行った。Budd Wentz Productions 社から送られてくるものは、WENTZ SCOPE本体、光源BOX一式のみであるので、テーブルおよびテーブル固定部品の準備、および設置作業については、購入側で行う必要があるが、テーブルに固定用の穴を開けるテンプレートまで用意されている。

   写真4.当館のWENTZ SCOPE:プレパラートはタマネギの細胞1種類のみ

   写真5.顔を近づけて見る人が多かった。30pくらい離れたところからも見えるのだが…

   写真6.スクリーンから30cm離れていてもこの程度に像が見える。

   写真7.顕微鏡を覗きたい小さな子どものためにも踏み台も用意した。テーブルの下に収めた踏み台のヒモを引っ張ると前に出てくるしくみ。

 またWENTZ SCOPE前面にはピンと合わせのノブが付いているが、いくら回転させても一定の範囲を往復するようになっており、ピント位置が分からなくなる心配がない。「顕微鏡を操作したい!」という子どもの欲求にも応えつつ、耐久性も考慮されている。

   写真8.通常の顕微鏡(単眼・双眼)も展示した。顕微鏡本体はアクリルケースを作成してガードし、テーブルには子どもが握って安定できるように、塩ビパイプで囲いを付けた。アクリルケースのお陰で、公開中には一度も故障することはなかった。

   写真8.やはり、鏡筒をつかんで見る子ども。


5.まとめ
 このように、WENTZ SCOPEおよび顕微鏡を展示物として一般に公開したが、耐久性についてはWENTZ SCOPEの方が、インパクトについては顕微鏡の方が、予想どおり良好な結果を得られた。WENTZ SCOPEの欠点と考えられる「一見顕微鏡らしく見えない」「写真を見ているように感じる」点については、プレパラートを数種類用意して見学者が自分で選んで見ることができるようにすれば(Budd Wentz Productions 社からオプションで購入が可能)、解決できるのではないかと考えられる。

 なお、取り扱い説明書の表紙部分(図1)と本体設計図(図2)を次頁に掲載する。 ※電子版では省略します


 図1.取り扱い説明書の表紙
簡単に見ることができる顕微鏡ということを、「ネコだって見ることができるんだ」という表現をしているところがユニーク。Budd Wentz Productions 社の詳しい連絡先は、上のとおり。

 図2.WENTZ SCOPE本体の図面 
WENTZ SCOPEは強力な光源で対象物の実像を透過型のスクリーンに投影し、これをルーペでさらに拡大して見るようになっている。ちょうどOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)と同じような方式のため、光を透過しないものは見ることができない。また、透過型スクリーン表面のざらつきが見えるのが欠点。



 なお、この展示の製作にあたっては、小野昌弘学芸員・長谷川能三学芸員と共に調査・製作を行なってきましたが、代表して岳川が報告しました。


大阪市立科学館学芸員たち岳川ゆきこのホームページ