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■宇宙と高分子■
高分子(ポリマー)は、鎖のように分子がたくさんつながっているもので、DNAもコンタクトレンズも消しゴムも歯ブラシも、高分子でできているものはたくさんあります。今月は、東京の国立科学博物館で見学してきた「おもしろ高分子展」という特別展から、宇宙に関係する高分子をご紹介しましょう。
◆宇宙服
上の宇宙服はこの特別展のためにNASDA(日本宇宙開発事業団)が提供していたもので、「この宇宙服は、日本の有人宇宙飛行計画を認めてNASDAに送られたものです。・・・1995年10月2日」というプレートが添えられていました。この宇宙服は、背中のタンク、ヘルメットなどすべて合わせた重さが120sにもなるそうです(宇宙空間ではこの重さは心配無用)。しかもオーダーメイドで、1着1億5000万円とのこと。これは10年間毎日着続けても、一日あたり4万円です!
モコモコしている宇宙服の構造は内側から、ナイロン*の下着、冷却水を流すチューブ*、気体を閉じ込めるウレタン*でコーティングされたナイロン*の層、アルミを基本とした断熱層と防護層、そして一番外側にテフロン*の層、というとても分厚いものです。この中で*しるしをつけたものが高分子で、宇宙服にもいろいろな高分子が使われていることがわかります。
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テフロン |
その中でも、焦げ付かないフライパンで有名なテフロンに注目してみましょう。テフロンという名前は、ナイロンを開発したことでも有名なデュポン社の商品名(開発は1938年)で、化学的にはポリテトラフルオロエチレンといいます。テフロンは、炭素(C)の鎖にフッ素(F)がついた高分子で、白色ないし淡灰色の固体です。熱に強く、低温でもろくなったりもしません(日なたで100℃以上、日陰で−100℃以下になる宇宙空間でも大丈夫)。摩擦係数も少ないので、宇宙空間でも快適に活動することができます。さらに薬品(酸・アルカリ、有機溶媒など)にも強くて、はっ水性、はつ油性、電気的絶縁性にも優れていて、テフロンはとても優秀な高分子のひとつなのです。

ここでクイズです。宇宙服の前面には温度調節用のダイアルなどがついています。でもよく見ると、ダイアルの数字やON−OFFの文字が逆さまになっています。どうしてでしょうか?こたえは、宇宙服はヘルメットが大きくて自分の胸の部分が見えないので、代わりに右の手首につけたちいさな鏡に反射させて文字を読むから、なんだそうです。なるほど・・・。
◆衛星のキラキラ

衛星はとても精密に作られているはずなのに、そのまわりを、まるでおにぎりをアルミホイルでつつむかのように、ルーズにくるんである(ように素人には見える)金色のキラキラ光るシート…。なんだか違和感がありますよね?このシートは、サーマルブランケットといって、太陽からの熱が衛星の内部に侵入することを防ぐための断熱剤の役割を果たしています。ここに使われている高分子は、ポリイミドという茶色い透明な膜で、これがアルミホイルに蒸着されていて、金色に光って見えます。この厚さは10〜20ミクロンと、とても薄いものです。そしてサーマルブランケットも宇宙服と同様に、断熱効果を上げるため、その内側にアルミ箔とポリエチレンの網を何層も重ねた構造になっています。(衛星の写真は宇宙開発事業団より)
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ポリイミド |
ポリイミドは、左の分子が線状にたくさんつながった高分子で、500℃くらいの高温でも分解しないという、強靭な耐熱性を持っています。逆に、極低温にも耐えられるので、宇宙での利用にもってこいの高分子です。電気絶縁性も−190℃から220℃まで変化しないので、プリンタの基盤など電子部品において絶縁膜として使用されています。
(岳川有紀子:科学館学芸員)
(2004.11.20.更新)
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