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■か、か、カルシウムが…■




 わたしたち学芸員は、科学館の展示物の維持管理(壊れたら直したり、解説をわかりやすくしたりなど)もたいせつなお仕事のひとつです。ですから、毎朝9時30分の開館前には、学芸員が分担してすべての展示物のチェックをしています。

 さて、土曜日の朝、4階フロアの点検をした学芸員から、『「周期表」の展示物のカルシウム(Ca)が吹っ飛んでる』との通報。実はこの周期表、教科書などに書かれている「紙」の周期表ではなく、元素の実物を一緒に展示している周期表なのです。
   放射性元素などはダミーですが、ほとんどは実物の単体をサンプル瓶に入れて展示しています。

 とにかく、吹っ飛んでいるとは非常事態。さっそく現場を確認しに行きました。
   こんなことに…。フタが飛んで、カルシウムも飛びだしていました。


 いったいこの小さなサンプル瓶の中で、どんなことが起こっていたというのでしょう?

 カルシウム(Ca)は、もともと銀白色をした金属結晶。
 空気中など酸素のあるところに置いておくと表面がすこしづつ酸化されて、酸化カルシウム(CaO)が生成します。
   2Ca + O2 → 2CaO  …白色の粉末。「生石灰」ともいいます。おかき、海苔などの乾燥剤として使われています。

 酸化カルシウム(CaO)は、さらに空気中の湿気(H2O)を吸収して、水酸化カルシウムになります。
   CaO + H2O → Ca(OH)  …白色の粉末。「消石灰」ともいいます。飽和水溶液は「石灰水」。

 酸化カルシウムは、二酸化炭素(CO2)とも化学反応をして、炭酸カルシウム(CaCO3)をつくります。
   CaO + CO2 → CaCO  …白色の固体。大理石、石灰石、貝殻などの主成分。
 
  もし、カルシウムが水(H2O)に触れると、すぐに化学反応を起こして水素(H)を発生します。
   Ca + 2H2O → Ca(OH) + H
 ※今回は、水が触れるような環境ではないので、この化学反応は起こっていません。
 

 使っていたサンプル瓶は密閉性があまりよくなかったのか、すき間から入りこんだ空気や湿気で何年も展示されている間に上の化学反応が少しづつ起こって、このようなことになったのでしょう。飛び出していた白い粉末も、カルシウムの単体ぽくはありません。でも、フタが飛ぶほどの勢いがどこから発生したのか、その原因は現在調査中です。

 なお、この現場は掃除をした後、カルシウムは新しいものを注文して、サンプル瓶はフタの上からさらにフィルムを巻いて、空気や湿気が入りにくい対策をする予定です。石油中に保存することになるかもしれません。

 (岳川有紀子:科学館学芸員)

(2005.02.01.)

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